目が覚めて、台所に立つとカーテンの隙間から雪の降る景色がのぞいていた。
「初雪だ・・・」 もう冬なんだあ。 季節のうつろいを突然につきつけられて戸惑いながらも、やっぱり心うきうきします。 今日もいいことありますように。
――誠実でありたい。/そんなねがいを/どこから手に入れた。/ それはすでに/欺くことでしかないのに。/ それが突然わかってしまった雪の/かなしみの上に新しい雪がひたひたと/かさなっている。/ 雪は 一度 世界を包んでしまうと/そのあと限りなく振りつづけなければならない/ 純白をあとからあとからかさねてゆかないと/雪のよごれをかくすことが出来ないのだ/ 誠実が 誠実を どうしたら欺かないでいることが出来るか/ それが もはや/誠実の手には負えなくなってしまったかのように/雪は今日も降っている。/ 雪の上に雪が/その上から雪が/たとえようのない重さで/ひたひたと かさねられてゆく。/ かさなってゆく。 ――吉野弘「雪の日に」
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