2005年01月12日(水) |
歌野晶午『葉桜の季節に君を想うということ』 |
ふとん乾燥機を買いに行ったヤマダ電器で、ジャケ買いです。 もう、タイトルと、冒頭の文章で、これは面白いぞ、とピンときました。
冒頭の文章を引用したいところなんですが、花も恥らう乙女ですから、ちょっと割愛したいと存じますの。
でも、この冒頭が、すでにあっと驚くエンディングへの周到な序章なのだからよくできています。 エピソードが時間軸どおりに流れず、ごちゃごちゃと、消化不良ですすむ感じも、すべてが伏線でした。 いやあ、見事にだまされてしまいました。 活字ならではの、映像化することができないミステリーです。
この斬新なトリックもそうなんですが、筆者は書くことをとっても楽しんでいる感じがして、それが読んでいて好ましかったです。
明くる晩、さくらと会った。 「生きててよかった」 ごくごくわずかに桜色に色づいた透明な切片を口に含み、俺は溜め息をついた。噛むほどに甘みがにじみ出てきて、知らぬうちにまた溜め息が漏れる。 「あ、また破れちゃった・・・・・・・」 さくらの手は心なしか震えている。 「こわごわ動かすからだよ。はじめてなのか?」 「違いますよ。でも、うまくいかない」 「まあ落ち着け」 俺は笑い、彼女の猪口に冷たい日本酒を注いだ。 赤坂の料亭である。檜の柱は黒光りし、山水画のかかった床の間があり、欄干には松竹梅が透かし彫りされ漆仕上げの座卓を挟んでさくらと俺がいる。もちろん個室である。たった二人なのに十二畳という贅沢さだ。 卓上に並ぶのはフグである。
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