我々は大きな華を着けるだろう。
人々の歓待の中で、表彰の中で、生死や区切りの儀式の中で。
バルキースのように、伝承による変更や、墓所の変移や、語彙の変遷がある華をつけるだろう。
そして絶世の美女と、簒奪(さんだつ)者と言われるかもしれない。
我々は大きな華を着けるだろう。
愛しい家族や恋人や友人や師弟は側にいるだろうか。
権力や権威や思想や名誉や金銭は味方してくれているだろうか。
食物や娼婦や寝床や住居や音楽や治安は備わっているのだろうか。
知識や学識は? 判断力や実行力などは? 自己肯定と否定の調停者は?
同時にあるのだろうか。
我々は大きな華を着けるだろう。
それが目的なのだから。
それが目的なのだから。
その周りの幾つもが目的と思っているのだから。
静寂な闇夜に揺れ動くネオンが幾つも遠い。
30年付き合った人差し指の付け根に青筋が浮いている。
眠れば明日は始まり、この道を行けば我も大きな華を着けるだろう。
じっと。
じっと何も観ていない。
消え行くような煌きのオレンジネオンは、我々の大きな華のようだ。
あそこに行きたいのだろうか、深紅の闇夜に犯され逝くそれらの場所に。
発電所と電線とメンテナンスシステムと、そうした人工によって支えられなくなれば真紅に喰らい尽くされるネオンサイン。
行きたい、という渇望が、漆黒の中から真紅を抜き出す智識によって、天空の星と観分ける判断によって、至高体験が終わった後の無感情によって。
じっと。
じっと何も観ていない。
追記:「バルキース(ビルキース):アラブの伝承上の女王。南アラビアの金銀宝石で出来たサバア王国の王座を、非道のおじから奪い取った。サバアは、シェバ、シバとも言い聖書を介し欧州には、「シバの女王」として有名になる。現在イエメンに墓所があるという説もある。NHKアラビア語入門参照
:原題は「 我々は大きな華を着けるだろう 」でした。内容的に連なるので改題し掲載です。
執筆者:藤崎 道雪