嗚呼その眼だよ。天地開闢(かいびゃく)以来、そんなに可愛らしく女性らしく媚びた眼を見たことが無いよ。
はっきりとした瞳を細くしながら、二重がより一層深くなっている。
ちらちらと左右に揺れる鼻は、くんくんとねだる犬のようにせわしなく、
もにもにと伸び縮みする唇の端は苺ケーキのようにみずみずしく、そして貴方の人格など吹き飛ばされたように、
深々と暖かく広げられた黒目はお辞儀をするような視線と矛盾して、
しわも、しみも、産毛すら白磁のような絹肌に釉(うわぐすり)が消し去られているかのように、
この場の快楽も欲情も、与えられた環境も遺伝子も、記憶の中の過去も未来も、
ぱらり、と黒目の中で焼き尽くされたかのように。
嗚呼その眼だよ。天地開闢以来、そんなに可愛らしく女性らしく媚びた眼を見たことが無いよ。
追記:原題は「玉ねぎの眼」
:「天地開闢(てんちかいびゃく)天と地が開けた、世界の始まり。」、「白磁(はくじ)素地(きじ)が白く釉薬(ゆうやく)が透明で、高温で焼いた磁器。中国古代に興り、唐代のものは西アジアからイベリア半島にまで交易された。日本では江戸初期、有田焼に始まる。」、「釉/上薬(うわぐすり)素焼きの陶磁器の表面にかけるケイ酸塩化合物。焼成するとガラス質になり空気や水を通すのを防ぎ、耐食性や強度が増すとともに器に美しい光沢を与える。釉薬(ゆうやく)。」 いつもながらインターネット版『大辞林』より抜粋
執筆者:藤崎 道雪