また帰って来たロンドン日記
(めいぐわんしー台湾日記)

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2004年02月13日(金) 【ほん】 綿矢りさ「蹴りたい背中」



 きました。本年度芥川賞受賞作。史上最年少。と、話題にこと欠かないこの作者。TBSテレビのニュースで見るかぎり、なんともつかみどころのない大学生の女の子という感じ。ま、知らない人なので「つかみどころがない」というのも失礼な話だが、俺にとっては興味深い人出少し親近感を感じた。俺がテレビを見てそう思えるということは、逆に太い神経を持った人なのかもしれない。受賞の当日の会見のとき、テレビのインタビュワーが彼女の足が青あざになっているのを目ざとく見つけ「今日は、足どうかしたんですか?」と問うのに、両手で顔を覆いながら「あー、そうなんだー、こういうのもあるんだー」と言っていたのが非常に印象的だった。どうもその当日か前日にどこかで転んでひざをぶっつけていたらしい。

 彼女のインタビューで頼もしく感じたのは芥川賞の受賞について「大変光栄に思うけど、流されないようにしたい」と言ったこと、そして自分の作品について「あくまで娯楽として楽しんでもらいたい」と言っていたことだ。こうやって文字にして書くと普通だが、彼女がインタビューに答えているのを見たときには、なんとも立派な態度だなと感心した。


【紀伊国屋BOOK WEBより】

蹴りたい背中
ISBN:4309015700
140p 19cm(B6)
河出書房新社 (2003-08-30出版)
・綿矢 りさ【著】
[B6 判] NDC分類:913.6 販売価:\1,000(税別)

愛しいよりも、いじめたいよりももっと乱暴な、この気持ち。高校に入ったばかりの“にな川”と“ハツ”はクラスの余り者同士。臆病ゆえに孤独な二人の関係のゆくえは…。


【感想】

 なんというのだろう。好き嫌いで言ったら嫌いじゃないな。ま、面白い感性だなと思う。何ヶ所か面白いと思うフレーズがあった。あまり書くとネタバレになってしまうので控えるが、例えば最後のあたり「はめられた」という言葉が出て来るあたりとか、結構面白かった。

 思い出したのは、10年前に吉本ばななの「キッチン」を読んだときのこと。「蹴りたい背中」は「キッチン」に比べると、すごくすっきりしているなと感じる。「キッチン」を読んだときには、形としては当時新しかったかもしれないが、感覚としてはあまり新しさを感じなかった。「キッチン」はどちらかというとおれたちの世代(昭和46年生まれ前後)の持つかよわさ、もしくはセンシティビティみたいなものに共通するものがあった。吉本ばななは嫌いではないが、敢えていえば、その気だるい感性に「アンニュイ」で「おしゃれ」なフレーバーをかけたような感じだった。「蹴りたい背中」には強さを感じる。俺自身があまり持っていない強さを感じる。情景描写はビジュアル性が高く、台湾映画「藍色大門」(邦題は「藍色夏恋」だったかな?)を思い出させる。筆致もどちらかといえばニュートラルな感じで、暗くない。もちろん人によっては「暗い」といっているようだが、俺はあまり暗さを感じない。暗さがあるとすればそれは前提として当たり前にあるのであって、それをいかにやりすごすか、楽しむかみたいなところを感じる。

 この本を読んで思ったのは、主人公ハツと同級生のにな川の醸し出す雰囲気だ。むかしロンドンで出会った俺より5歳ぐらい年下の、今27歳前後の男の子たち(彼らは当時は23前後だったのだけど、俺と同様に彼らも年をとっているということに気付いてがく然!!)もしくは、もっと若い人たちのそれ。当時から思っているのだけど、彼らは「偉いな」と。俺らにとって当たり前でなかったいろんなことが、彼らにとってはもうすでに前提になってしまっていていること。そして妙にさばさばして感じられること。

 そういう意味でも、俺にとっては新しくて、ちょっと懐かしいような雰囲気を感じる本だった。やっていることはたいして変わらないのに、ちょっとした環境や時代の変化、共有されているその時の雰囲気などで、人々の持つ感覚、そして小説の中に表現されてくるものが違ってくる。そしてそれは「変わらないもの」が自然に「変化していく」というものすごい可能性を感じさせてくれる。文芸賞受賞作の「インストール」も機会があれば読んでみたい。


倉田三平 |MAILHomePage

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