カンラン
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普段は穏やかなつちのこ氏が怒っている。
運転中に無理な割り込みをされても、洋服屋の店員に体型にケチをつけられても、気分を害した素振りなどまったく見せないつちのこ氏が怒っている。 (ちなみに、上記の2つ。隣にいた私は、ムカついてムカついてしょうがなかった。)
それは夕食のかたづけが終わったあと、つちのこ氏が何よりも楽しみにしているスイーツタイムに起きた。
うれしそうにキッチンへ向かい、仕事帰りに買った某ドーナツショップの箱を手に戻ってきた。 ならば、と紅茶を煎れて、箱を開けたそのとき―
何か腑に落ちない顔で、ドーナツをひとつ手に取り、まわしている。くるくるくる…そしていきなり、 「やられたぁぁぁ!」 何? 何? 何? と突然の出来事にビクつくぴのきと私。
ドーナツをくるくるまわしてつちのこ氏が探していたのは、チョコ。 オールドファッション抹茶のチョコがけを頼んだのに、チョコのかかっていない普通のオールドファッション抹茶が入っていたのだった。
あまりの落胆ぶりに、のどのあたりまで出かかった「まぁ、えぇじゃん」という言葉は行き場を失い、そのまま体内に戻っていった。
結局、チョコのかかっていない普通のオールドファッション抹茶をぶつぶつ言いながら食べたつちのこ氏。 お風呂に入って、ぴのきを寝かしつけたあとも、テレビゲームをしながらまだ呪いの言葉をつぶやいていた。 この怒りは、相当だ。
あのとき、体内に戻っていったあの言葉がまたのどのあたりまで上がってきたが、とりあえず、そっとしておいた。
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