カンラン
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めぐりあわせとはおかしなもの。 衣裳ケースの奥から引っ張りだして着たのは、花柄のワンピース。 かたづけの最中に指先が触れたのは、緑色のジャケットのCD。 どちらも私が大学生だったの頃の愛用品。
最初のうちは、ふわっとしていて懐かしい。 マンションの壁がやたら薄かったことや、ドアやエレベーターがピンクだったこと、裏には大きな酒屋さんがあって、ひとりでワイン買って飲んでトイレでつぶれたこと。
おかしなことまで思い出して吹き出しそうになるのに、なんでだろう。 早足で坂を下るように淋しく淋しくなる。
そうして、愛しいはずの思い出から身を隠すように、音楽をとめる。最後の最後まで、転げ落ちてしまうその前に。
『ただ、君を愛してる』 悪い人がひとりも出てこない映画。 ただただ真っすぐ涙を流したいときに。 ―「好きな人が好きな人を好きになろうと思っただけだよ」
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