.◆◆第4話:『愛しのハピィデイズ』 ��

 放課後。
 約束の場所に着くと、相手の人と絵里ちゃんのバンドのメンバー・浩司先輩がもうすでに来ていて、窓ぎわの席から手をふっている。
 遊び人風の(見た目、ってことよ、あくまでも)浩司先輩に対して、彼は、絵里ちゃんの言った「優しくていいひと」をそのままかたちにしたようなひとで、兄弟なのにこんなに雰囲気が違うんだなあと思ったのが第一印象だった。 
「ごめんねぇ、遅くなって」絵里ちゃんが言う。
「・・・いいよ。それじゃ行こうか、絵里。」そういって立ち上がりかけた浩司先輩を思わずあたしは引き留める。
「いきなり二人きり、ですかぁ!?」
「そうだよ。俺らだって練習あるしさ。大丈夫、取って食いはしないから。じゃ後頼んだぞ、尚登(なおと)」
 そんなぁ・・・。考えてみればあたし、こんな形で男の人とお茶するって初めてなんだよね。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」ふたりの間に流れる沈黙。やがて耐えられなくなったのか、
「あのさ、笹原さん」彼がやっと口を開いた。
「はい?」
「ごめんな、急に呼び出して。兄貴が笹原さんのこと知ってるから協力してもらったんだ。」
「あのぉ・・・ほんとにあたし、なんですか?あたしでいいんですか?」あたしが聞くと彼はかすかに苦笑いして、もう覚えてないだろうけど・・・と前置きして話し始めた。 
 
 「前にさ、永井の所に差し入れしたことがあっただろ?部活の大会か何かのときに。あの時、バレー部はどこで試合してるか聞いただろ?通りすがりの奴に。あれ、俺だったんだ。それで笹原さんはお礼にクッキーをくれて。・・・変な話だけど、俺はその時から笹原さんのこと気になってて。
で、俺は笹原さんを永井の彼女だって思ってたから今まで言えなかったんだ。
・・・いきなりこんなこと言ったら失礼かもしれないけど、俺とつきあってくれないかな?友達からでいいから」  
 そう言った彼の顔は真っ赤で、何だか一生懸命って感じで。そんな彼がかわいく思えて。ぶっきらぼうだけど優しそうなひとだなって感じて。
「あたしでよければ・・・」そうつぶやいていた。
 現金な話だけど、彼といたこの時、今まであたしの心を占領し続けていた亨の姿が消えていた。

  
 「そうかー、美和子にもついに男ができたかぁ。」
 数日後、一学期の終業式の日。大掃除をしながら絵里ちゃんと麻衣がしみじみとつぶやいた。
「別に彼氏って訳じゃないもん、尚登くんは」
「尚登くん、だってぇー。もうすでに名前で呼んじゃってるわけね、桑原氏。」
「いーねぇ。何かうらやましいわぁー。ねぇ、麻衣?」
 二人に突っ込まれ、からかわれ・・・でもそれがなぜか嫌じゃなかった。

 「ところでさぁー、用意した?例のあれ。」あたしは素早く話題を変えた。
「ああ、あれね。バッチリ用意したわよー。」
「楽しみよねー、とーこさんがどんな顔するか」二人が顔を見合わせ、意味ありげに笑う。
 今日は瞳子ちゃんの誕生日。7月20日という、普通なら一学期の終業式とバッティングする日付のせいか、どうも自分の誕生日を忘れられやすいと瞳子ちゃんがぼやいていたのを聞いて、あたし達は今日、朝からわざと今日が瞳子ちゃんの誕生日だと誰も口に出さないようにしておいて、後でプレゼントを渡して驚かそうと言う計画を立てたのだった。
 いくらクールな瞳子ちゃんでも誕生日を忘れられてたらがっくりするだろうし、去年の誕生日にプレゼントを渡したらすごく喜んでくれたから。

 「きた?」
「くるくる、今帰ってくるよ」廊下で見張りをしてた絵里ちゃんがあわてて教室の中に入ってきた。瞳子ちゃんの机を囲むようにして、瞳子ちゃんの帰りを待つ。
「・・・何やってんの、あんたたち」あきれたような顔をして自分の席に瞳子ちゃんが戻ってくる。
「(せえのっ)瞳子ちゃん、お誕生日おめでとう!」あたしの合図で瞳子ちゃんを囲んだ5人がいっせいにプレゼントを差し出す。さすがの瞳子ちゃんも驚いて、目がまん丸・ぼーぜん状態。
「ありがとー。・・・それにしてもあんた達もひとが悪いわよねぇ」
瞳子ちゃんを驚かす作戦、見事成功!とその時、後ろから本並先生が・・・。
「お嬢さん方、ホームルームを始めたいんだがな・・・。さっさと席につけ」
 瞬間、あたし達6人はA組のみんなに大爆笑されたのだった・・・
 
 その日の夜。 
 おふろあがりのあたしに、珍しく早帰りのママが声をかける。
「美和子、亨くんから電話よ」亨から?あたしは不思議に思いつつ受話器を取る。
「美和子?頼む、すぐ出てきてくれ!瞳子の様子がおかしいんだ」受話器の向こうから飛び込んでくる、せっぱつまった亨の声。
「どーゆーことよ?亨、あんた瞳子ちゃんに変な事したんじゃないでしょーね!?」
「そんなんじゃねぇーよ!あんな瞳子もう見てらんねーよ。とにかく頼む、公園にいるから」
 昼間の瞳子ちゃんは別にこれと言って変な様子はなかった。じゃあ、何が起きたというのだろう・・・あたしはあわてて家を飛び出した。不安を胸に抱えながら。

                (『愛しのハピィデイズ』 �い紡海�。)

2002年05月10日(金)◆◆


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