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2002年08月01日(木) |
上杉春雄さんのコンサート |
インターネットをはじめてから、まだ3年の私ですが、ネットの威力というのは素晴らしく、非常に多くの、ネットをしなければ出会えなかったであろう方々と出会うことができました。 日本で最初の医師ピアニストである上杉春雄さんも、その一人です。 上杉さんを通じて、尊敬できる方たちと出会う事ができ、ご縁の不思議さ…というものを感じているこの頃です。
で、その上杉さんのコンサートが、27日の土曜日に、とあるサロンで開かれました。 2年前にも同じ場所でコンサートが開かれ、モチロン足を運び、それを機会に親しくお付き合いさせていただいている方も大勢いらっしゃるのですが、こちらのサロン、日本クラシック界のそうそうたる面々がいらしていて、客席にもなかなか緊張感があります。 土曜日にも、今、人気のピアニスト、イリーナ・メジューエワさんがご夫婦でいらしていました。
コンサートのプログラムは以下の通りです。
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ラヴェル:水の戯れ
ラヴェル:夜のギャスパール
ドビュッシー:映像第1集
メシアン:「幼子イエスに注ぐ20のまなざし」より 第15番 幼子イエスのくちづけ 第10番 喜びの精霊のまなざし
(アンコール) フォーレ:ノクチュルヌ第1番 バルバストル:ロマンス(手回しオルガンのための)
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最初に演奏された、“水の戯れ”は、以前、上杉さんのお宅に伺った時にも聴かせていただいたことがありました。 でも、ご自宅のプレイエルでリラックスした雰囲気で演奏されたものと、コンサートの聴衆の中で第1曲として弾かれたものは、やはり、少し雰囲気が違います。 とはいえ、それはラヴェルらしい透明感に満ちた魅力的な演奏でした。
次の『夜のギャスパール』は、“オンディーヌ(水の精)”“絞首台”“スカルボ(地の精)”という、オカルティックな(?)3曲から成る曲集です。 第1曲の“オンディーヌ”では、先の“水の戯れ”にも通じる透明感がありながら、ドラマティックな演奏で、解釈も私にとっては納得できるものでした。 第2曲の“絞首台”は、おどろおどろしげな静寂と、胸をえぐるような不気味さを感じる演奏でした。 そして、第3曲の“スカルボ”の何とも言えない気持ち悪さと、滑稽さが表現されていて、興味深いものでした。 超絶技巧を要するラヴェルのこの曲集で、こういった1曲1曲の性格を表出する演奏には、実は、なかなか巡り合えなかったりするものです。 お医者様という、決してヒマな筈がないお仕事をされながら、ここまでの演奏をされる上杉さんに、改めて、尊敬の念を感じてしまいました。
後半のはじめの『映像第1集』は、“水の反映”“ラモーを讃えて”“運動”の3曲からなります。 “水の反映”は、先のラヴェルの水にちなんだ作品との対比も感じられ、同じ演奏家が同じ時に演奏するのを聴くのは、興味深いです。 ラヴェルの水が清冽で、実際に触って冷たさを感じるようなものだとしたら、ドビュッシーのこの作品では、水面に小石を投げ込んだ時の変化や、水面に映る光の変化を描写しているような気がします。 調律のせいか、高音が少し固かったのが残念に思いましたが、それでも、上杉さんの演奏からも、そういったものを感じました。 “ラモーを讃えて”“運動”の2曲も、それぞれに、曲の雰囲気が伝わる、素晴らしい演奏でした。 何よりも、ふとした瞬間に、心の中まで音楽が入ってくる…、その感じが、聴いていて心地よかったです。
どの演奏も、とても楽しめるものでしたが、最後に演奏されたメシアンの2曲は、格別でした。 メシアンは20世紀を代表する作曲家であり、ピアノの為の作品も沢山残しているのですが、演奏されてからの歴史が浅い事と、どの曲も難曲である事…などから、私にとって、とても分かりにくい印象がある作曲家でした。 それなりに興味があり、CDも何枚かは持っていますし、コンサートでプロによる生演奏を聴いた事も、何度もあるのですが、メシアンの薫陶を受けた方、メシアンと親交のあった方の文章に時々出てくる、『メシアンの音楽の素朴さ』というものを、実際の演奏から感じたことがなくて、自分の感覚に自信をなくしていたりしたのです。 でも、上杉さんの演奏を聴いていると、その素朴さや、原始的なエネルギーのようなものを自然に感じ取る事ができて、演奏を聴く喜びを感じました。 メシアンの演奏によくある、頭の良さを感じる演奏ではなく、その先にあるものを表現している演奏なのです。 上杉さんが知り合いだから…ではなくて、上杉春雄さんというピアニストの演奏が素晴らしいから、メシアンをもっともっと演奏して欲しい…と、心から思いました。
14年前に、元祖Jクラシック(?)の騎手としてデビューした上杉さん、14年ぶりに、CDをリリース、来年は、2月東京、3月大阪、4月札幌…と、リサイタルも予定されているそうです。 友人として、そして音楽を愛する一人として、これからも、できる限り応援していきたい…と思っています。
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