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2003年08月25日(月) 『天才の読み方 究極の元気術』

ピアノのレッスンについて勉強しようと思った時には、それについて書かれた専門書を読まれる方が多いと思います。
しかし、ピアノレッスンについて書かれた本というのは、著者のピアノレッスンの位置付けや音楽観、人間観によって、具体的な事が大分違ってきますので、自分が求めるものと必ずしも一致するわけではありません。
私も、どうすれば良いか判らず随分悩んだものですが、自己啓発書の類の中には、そんな時のヒントになるものがあります。(このテの本の怪しげなのは、本当に怪しいですけど

『天才の読み方 究極の元気術』斎藤 孝 著(大和書房刊)

最近、話題の本を次々と出版している印象の著者によるこの本も、学ぶ姿勢や物事に対する考え方についてのヒントを与えてくれた1冊でした。
この本で取り上げられているのは、ピカソ、宮沢賢治、シャネル、イチローの4人の天才たちです。
天才を取り上げた本は、他にもありますが、この本の面白く、しかも私たちにも参考になる所は、天才というものを「上達の達人」と位置付けている所です。
「上達の達人」ですから、“学ぶべきものの宝庫”であり、“私たちが持っている多くの課題を集約的に抱え込んでいる存在”というわけです。
そのような視点で、天才が乗り越えた困難や、成し遂げた偉業をみつめ、ジャンルや時代が違っても、共通する部分や、固有の部分を見出していくのは、読んでいて、なかなか楽しいものでした。
特に、シャネルのクリエーターとしての能力の発揮の仕方と、イチローの子供の頃のお父様との練習については、ピアノのレッスンや練習にも通じる部分を大いに感じました。
この辺り、是非、ピアノを指導される先生や、お子さんにピアノを習わせていらっしゃる保護者の皆様にも、読んでいただきたいと思います。

沢山のヒントがありますが、それらの中でどれが印象に残るか…というのは、読む人によって、大分違うのではないか…という予感がします。
私にとって印象に残った言葉を、いくつか並べてみますね。

【ピカソ ― 生きることも創作もすべてプロセスだ】

よく人は「自分なりの」という言葉で自分を守ろうとします。
(中略)
そんなふうに自分にこだわっていると、だんだんとエネルギーが落ちていきます。人間というのは、自分を刺激するような素晴らしいもの、素晴らしい人物との出会いによって、エネルギーを得て、どんどん元気に、大きくなるものです。

【宮沢賢治 ― 自然に身体と心をさらして自己を鍛える】

そこで、宮沢賢治から私たちが学べることの一つは、「知識と体験の深さというのは対立しない」ということです。
学生たちに聞いてみても、「知識より経験が大切だ」と言う人が多いですね。
それは知識より体験の方が価値が高い。知識だけでは役に立たない。知識をつめこむと感性が損なわれてしまうと思うところから出てくるのでしょう。しかし、この考え方は浅いですね。(中略)
実際にはそんなことはまったくないことが、宮沢賢治を読むとよくわかります。(中略)
経験の深さは知識の深さによってよりいっそう深められるということがいえます。

【シャネル ― 孤独とコンプレックスをプラスのエネルギーへ】

本当の教育というのは、自分のために都合のいいようにするのではなくて、相手自身が成長していくようにすることです。

【イチロー ― 完成された技を生み出す集中力のゾーン】

感覚と結果をつねに照らし合わせ、ずれをチェックするような作業ができれば、どのような世界であっても、さらに内側の感覚に潜りこんで敏感に差を感じることができるようになります。こうし内側の感覚を自分でつかむことがものごとを上達させる一つのコツなのです。

天才のエネルギーがどこから出るのかといえば、自分の才能を全開させたいという自分の中の動機がまずあります。しかし天才は、それを続けていく時の苦しさの中で、支えになる存在を何か必ず持っているものです。
天才はその土台に、「感覚を共有できる」「信頼関係がある」存在があって、激しい活動を支えていることができるのです。甘えられる、愛されているということは、非常にエネルギー源になります


これらは、印象に残った言葉の中の、ホンの一部です。
どれをご紹介しようか迷ってしまうくらい、参考になる言葉が沢山ある一冊でした。

ところで、こういう本を読む時には、有益に活用するコツがあるような気がします。
それは、有益な部分だけを覚えて、書いてある事全体に対して、深追いしない…という事。
より、興味がある部分があったら、もっと他の本を読んでみる…という事です。
この本の場合でも、それぞれの天才について、詳しく書かれた本は、他に、もっと沢山あるでしょうし、天才について論じた本も、他にあるかも知れません。
そういうものを読んだほうが、より多くのものを得られると思います。
ピアノの上達には、沢山の曲に取り組んだほうが良いのと、同じようなものですね。


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