酔陽亭 酩酊本処
いらっしゃいませ。酔陽亭の酔子へろりと申します。読んだ本や観た映画のことなどをナンダカンダ書いております。批判的なことマイナスなことはなるべく書かないように心掛けておりますが、なにか嫌な思いをされましたら酔子へろりの表現力の無さゆえと平に平にご容赦くださいませ。
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私の好みの女性のタイプは、女優さんで言うと松雪泰子さん(「きらきらひかる」 の時のえらそーな女刑事役)、鈴木保奈美さん(「ニュースな女」 の時のえらそーなキャスター役)、常盤貴子さん(「タブロイド」 の時の負けず嫌いな女性記者役)などなど。そして今一番好きな女優さんは、天海祐希さんv 天海の宝塚時代はまったく知りません。彼女が宝塚退団後、テレビやスクリーンに登場して以来、めろめろのくらくらvvv そんな天海主演だから見たテレビドラマが、この 『左手に告げるなかれ』 でした。ドラマ終了後、原作を知りさっそく読みに走った訳です。 (いわゆる根がミーハーなんですね、ははっ)
本を読んだ後、私は天海がこの作品のヒロイン八木薔子役を演じてくれたことに感謝しました。それくらいこの本のヒロインはいいです。そしてヒロイン役に天海を選んだプロデューサーもすごいです。 八木薔子は、かつてエリートキャリアまっしぐらだった女性ですが、とある恋愛が原因でそのキャリアを失う。愛した人に家庭があったから。傷ついた薔子は、その後スルガ警備保障保安課の保安士としてストイックに仕事に生きていく。同僚に蔭で ‘氷の薔薇’ とあだ名をつけられて。なぜそんなあだ名をつけられてしまったのかは本を読んでみてください。納得のネーミングですから。 そんな薔子のもとへ、刑事が現れます。かつて愛した人の妻が殺害された事件の容疑者とうたがわれて! ・・・愛し合いながら生木を裂かれるように別れた男との再会、汚名を晴らすべく事件を調べはじめる八木薔子。いいですよー。どんどんと引き込まれてあっと言う間に読んでしまうこと間違いないv
この物語で、すごくいい味を出している人物が薔子の上司にあたる、指令長の坂東女史。薔子のよき理解者であり、応援者であり、時にかっかした薔子の頭を冷やしてくれます。私はいつか坂東さんのような人になれたらいいなぁ。薔子が、神経的に参った時に坂東さんはこう言います。 「なあ八木、さっさと家に帰って、風呂を沸かせ。そしてゆっくりあったまれや。 まちがっても辞表を書いたりするなよ。同じカクなら鼾をかけ。これは坂東からの命令だ」
これが胸にじーんとくるですよ。そのすぐ後の台詞がより泣かせるのですが、そこはほれ、本を読んでくださいな。こういう懐の深い人間って言うのは、いいですなぁ。 存在感が圧倒的です。引き締まる。
薔子が、たどりつく真相にはどんでん返しがあります。たどりついた真相は、書けない。 たどりつくまでに薔子が、かつて愛した人の妻の実像に迫りますが、いろんな意味でこれまた痛々しいです。人間という生き物はやっかいで、複雑で、いい人ばかりじゃない。はぁ。
「左手に告げるなかれ」は聖書から引用されています。マタイ伝第六章、山上の垂訓;
人にみせびらかそうとして、他人の前で善業を行わないように気をつけよ。そんなことをすれば、天においでになるあなたの父からの、すべてのむくいが受けられない。だから施しをする時には、偽善者が、人の尊敬をうけようとして、会堂や町でするように、自分の前でらっぱをならしてはいけない。まことに、私はいう。そういう人々はすでにむくいを受けてしまったのである。あなたが、施しをするときには、右の手でしていることを、左の手にさえも知らせないようにせよ。それは、あなたのする施しをかくすためである。そうすれば、かくれたことをごらんになるあなたの父が、むくいをくださるー。
八木薔子が、この垂訓からなにを得ることができるのか、是非読んでみてくださいねv ちなみに、 『無制限』 もかなり面白いです。こちらには八木薔子がちょこっとだけ登場。
『左手に告げるなかれ』 1996.9.10. 渡辺容子 講談社
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