酔陽亭 酩酊本処
いらっしゃいませ。酔陽亭の酔子へろりと申します。読んだ本や観た映画のことなどをナンダカンダ書いております。批判的なことマイナスなことはなるべく書かないように心掛けておりますが、なにか嫌な思いをされましたら酔子へろりの表現力の無さゆえと平に平にご容赦くださいませ。
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2002年09月13日(金) |
水曜日の朝、午前三時 |
「今まで生きてきてものすごく好きになった人って何人います?」 私は、酔うとよくこの質問を投げます。いろんな年代の人に尋ねてみるけれど、戻ってくる答えの人数はみんなとても少ないです。そう、ほんのひとりかふたりなんです。そういうものかもしれません。 私が今まで生きてきてたまらなく好きになった人は、死んじゃった旦那ともうひとりだけ。 またいつか私がそうを尋ねたら教えてくださいね。
この物語は、ホラーでもミステリーでもサスペンスでもありません。人が死にますが、それは事故であったり、病気のためだったりです。私にしては珍しく分類は、 ‘ある愛の詩’ という感じでしょうか。 物語のヒロインは、四条直美。病気で死ぬ前に娘にあてて自分の人生を録音します。その彼女の激しく愚かな70年代の青春と後悔の物語です。高度成長期にあたり、差別や戦争の影も落ちていた、そんな時代の物語。舞台は大阪万博。日本中が世界中が熱に浮かされるようにそこへ行った特定の時間と空間。万博でホステスとして働く直美は、激しい恋に落ち、現実とぶつかり、自己嫌悪に陥る・・・。
「私はこれまでに何千冊もの本を読んできたけれど、それ以上に日々の暮らしから学ぶことの方がずっと多かった。二十代の私は嫌味な自信家だったし、多くの人のことを軽蔑していたけれど、それでもけして自分の知的確信の奴隷にはなれなかった。内心では花見客を馬鹿にしていながら、偶然に桜の花を目にして、その美しさに圧倒されたりしていたのです。ピアニストが毎日休みなく鍵盤を叩くように、私は人生の練習を続けてきたのです」 これが典型的な四条直美。こういう女性の物語です。
直美が、録音の最後に娘へ語り聞かせる、彼女の得た人生の宝物のくだりはとりはだが立ちます。迷った時に焦らないで立ち止まれ、という直美の言葉は私の人生においても自戒となりました。彼女は差別という壁にぶちあたります。これには私は答えられません。奇麗事も言えそうにありません。実際、自分がその立場になったら直美と同じ行動を取ってしまう気がします。そして必ず後悔をする。
この本は、Pabloへ行く前に、別嬪ゆうちゃんと待ち合わせをしている時にふと手にして読んでしまった本です。きっと本に呼ばれたのでしょう。この本を読んだ頃、私は熱に浮かされたようにこの本のことを人に喋っていた気がします。でも残念ながら世の中ではクリーンヒットにはならなかったのかな。 あまったるい恋愛小説は読まない、見ない、そんな私が惚れた恋愛モノです。 悲しいけれど清清しい想いをする本です。そして人間について考えさせられる本です。 なにかの時に、この本を見つけたら読んでみてください。
奇しくも今日、2002年9月17日、小泉さんが北朝鮮で会談に臨みました。行方不明になり北朝鮮の拉致疑惑があった方々の生存確認表明もありました。6名死亡。なんということでしょう。国交正常化ですか。人と人の心に差別という垣根がある限り、正常になるとは思えない。ニュースを聞きながらそんなふうに感じてしまった、火曜日の夜、午後七時でした。亡くなった方々のご冥福をお祈りしいたします。
『水曜の朝、午前三時』 2001.11.20. 蓮見圭一 新潮社
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