酔陽亭 酩酊本処
いらっしゃいませ。酔陽亭の酔子へろりと申します。読んだ本や観た映画のことなどをナンダカンダ書いております。批判的なことマイナスなことはなるべく書かないように心掛けておりますが、なにか嫌な思いをされましたら酔子へろりの表現力の無さゆえと平に平にご容赦くださいませ。
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2006年10月07日(土) 『名もなき毒』 宮部みゆき

 《あらゆる場所に「毒」は潜む》・・・宮部みゆきさんが炙り出す現代の光りと闇ですね。なんだかトッテモ心に痛かったです。救いは杉村が出会う優しい人たちの存在。これからはそういう人の方が稀有になってしまうのかもしれない。かつてはそういう人たちこそが普通だったはずなのに。人間の身体に害なす毒、人間の心に害なす毒。昔から毒はあらゆる場所に存在していたのだと思います。でもそれでもそれを悪化させずに中和できてきたのではなかろうか、と。でも今はどんどんと毒が毒々しく増していっている・・・地球も人の心も汚染されていくばかり。優しい風貌をされながら、宮部さんの視線は厳しい、そして的確。杉村や同僚が当たってしまった悪意の塊のような女ってデフォルメされているケレドモ、多くの人の心に住んでいるのではないかと思うのですね。ああまでくっきり具現化していないまでにもアノ悪意と言う毒を私だって隠し持っている。ただそれを表に出すか出さないか。そこが分かれ道なのでしょう。性質が悪いのは自分は悪くない間違っていないと思い込んでいる無神経と言う毒。あんなにも人を傷つける毒はない。その無神経という毒を自覚できない限り、悪意を垂れ流す。そういうのだけは避けたい。自分を強く持たないと私だって原田いずみ。

 不運にも毒に触れ、それに蝕まれてしまうとき以外、私たちはいつも、この世の毒のことなど考えないようにして生きている。日々を安らかに過ごすには、それしかほかに術はないから。
 突っ立ってただ問いかけているだけでは、誰も毒のことを教えてはくれない。それがどこから来て、何のために生じ、どんなふうに広がるものであるのかを。


『名もなき毒』 2006.8.25. 宮部みゆき 幻冬舎



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