酔陽亭 酩酊本処
いらっしゃいませ。酔陽亭の酔子へろりと申します。読んだ本や観た映画のことなどをナンダカンダ書いております。批判的なことマイナスなことはなるべく書かないように心掛けておりますが、なにか嫌な思いをされましたら酔子へろりの表現力の無さゆえと平に平にご容赦くださいませ。
DiaryINDEXpastwill


2006年11月18日(土) 『イヴの夜』 小川勝己

 光司は、人数合わせで参加させられたコンパで麻由子と会った。麻由子も渋々参加の口らしく、引っ込み思案な光司はなんとなく惹かれるものを感じた。不器用ながら付き合いはじめた二人。なのに麻由子が惨殺されて、マスコミはいかにも光司が犯人であるかのような報道合戦を仕掛けてくる。周囲の人から不審の視線を浴びるうちに付き合っていたことが自分の妄想ではないかと思い始める光司だった・・・。

 身につまされるような悲しい物語であります。ううううう(泣)。好きな人が殺されて、犯人であるかのような報道をされ、親にすら疑われてしまうなんて。行き場のなくなった主人公の胸のうちを思うと痛くて痛くて。光司と交互に登場するヒロインのデリヘリ嬢のひとみも生き辛いタイプの人で・・・交互に出てくる主人公が交互に痛くて、クロスしたと思ったらこれまたますます痛すぎて。なんだかなぁ。でもこういうの描かせると小川勝己さんってうまいと思います。閉塞的な絶望感に人間不信。最後に救いがあるのかどうか、そこは読んでみてくださいませ。大手を振ってススメはできませんケレドモ。痛いの覚悟で。

 自分たちは、他者を憎み、恨み、妬み、嫉み、蔑み、貶め、拒絶し、愚弄し、嘲笑し、騙し、裏切り、傷つけてきた。心のなかで − ときには態度や言葉で、あるいは行動で。そしてそれらは、たいてい自分の脳内で都合よく変換され、捏造も加えられ、自己にとって肯定的なものへと変化してゆく。自分の心理的立場を被害者のそれへと変えてゆくことすらある。

『イヴの夜』 2006.10.25. 小川勝己 光文社



酔子へろり |酔陽亭酔客BAR
enpitu