酔陽亭 酩酊本処
いらっしゃいませ。酔陽亭の酔子へろりと申します。読んだ本や観た映画のことなどをナンダカンダ書いております。批判的なことマイナスなことはなるべく書かないように心掛けておりますが、なにか嫌な思いをされましたら酔子へろりの表現力の無さゆえと平に平にご容赦くださいませ。
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2006年11月19日(日) 『ゆれる』 西川美和

 タケルは母の法事に田舎に戻ってきた。カメラマンになったタケルはぼさぼさ風情も垢抜けていて父親が経営するガソリンスタンドにフォードのステーションワゴンで乗りつけ給油される様もカッコよさげ。窓を拭く女の揺れる胸元を見ていたタケルは胸の持ち主が幼馴染の智恵子であることに気づき動揺する。法事に遅れたタケルを父はやはり快く思わずもめるのだが、兄ミノルが優しく納めようとしてくれる。兄のミノルは田舎や家族を捨てて出て行った弟タケルを責めることもなく、全てを静かに引き受けてきていた。ガソリンスタンドで働く智恵子は兄にべったりで、その昔、智恵子を捨てたくせになんとなく面白くないタケル。そして気軽に智恵子を抱いて、翌日、三人で吊り橋のある蓮美渓谷へドライブに行き、三人の人生と関係が大きく大きく揺れてしまうのだが・・・!?

 映画『ゆ れ る』の評判がものすごく良く、主演のオダギリジョーを観たかったのですが、結局映画館に行けなかったので原作を読んでみました。これは読んでその背筋に寒い怖さに唸りましたっ!!! これってホラーだわ。激しくホラーだった・・・(唖然)。映画ではどのようなカタチなのかわからないのですケレドモ、小説では登場人物ひとりひとりからの視点からの語り形式となっています。だから事件の浮き彫りようがハッキリクッキリで人間の心の闇がずぼっと浮き上がってくるのです。この語りようが怖い。関わった人間の感情がそれぞれに主観を変えるために恐ろしいまでに怖さを煽るのです。中でも悲劇のヒロイン智恵子のズルさ汚さ哀れさに共感できてしまって、それゆえにトンデモナイ最期を迎えてしまって・・・ホラーのヒロインは一番怖い目に遭うものなのですよねぇナンテ納得してしまったくらいです。来年の2月にDVD発売とのことなので待ち遠しいです。おそらく映像で観たらまた違う角度から心を揺さぶられてしまう気がします。この西川美和さんってスゴイ人なのじゃないかしら。これから注目していきたい女性であります。オススメ。

 けれど全てが頼りなく、はかなく流れる中でただ一つ、危うくも確かにかかっていたか細い架け橋の板を踏み外してしまったのは、俺だったのだ。

『ゆれる』 2006.6.13. 西川美和 ポプラ社



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