| ぼくたちは世界から忘れ去られているんだ |
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| 2002年04月24日(水) | 企画小説第三弾 |
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テーマ「孤独に溺れる人の話」 わたしの目の前に、一つの水槽がある。ネオンテトラが数匹ゆったりと泳いでいて、底にはビー玉が敷き詰められ、嘘っぽい水草が揺らいでいる。人工的に泡を出す機械だってある。そうだ、これを小さい頃、わたしはぶくぶくと言っていた。 そしてわたしの軽く掴んだような右手の中。 そこにあるのは、睡眠薬である。なんだかよくわからない病院で処方されたもので、物凄くたくさんいっぺんに飲むと、死んでしまうこともあるらしい。が、わたしは別に、ものすごくたくさん飲もうなんて考えてるわけじゃない。これで、ちょっとばかり、遊ぼうと思っている。それだけである。と、言っても、イエーイスニッフー、とか思ってるわけでもない。確かに今から粉にするのだけれど。乳鉢で、ごりごりと、する。できた。粉末になった。それを薬包紙で包む。そしてまた、ネオンテトラの水槽の前にやってくる。 その粉末を、水槽の中に、入れる。魚たちが寄ってくる。が、魚たちは少し食べると、逃げてしまう。けれどこの薬は水に溶けるのだ。あはは、楽しい、と、台詞を言ってみる。阿呆みたいだなあ。 と、わたしは急に自分とこのネオンテトラたちしか地球上に存在しないような気分になっていた。「宇宙船地球号」とかいうバカバカしい言葉があるが、まさにそんな感じ。 悲しい悲しい悲しい、バカみたいに呟く。何度も何度も。すると、本当に悲しいような気分になるから、不思議だ。わたしは机の上からお気に入りの香水を取ると、それを何度も何度も吹きかけた。どうしようもないぐらい、甘ったるい匂いがわたしを包む。甘い。甘い。それでいい。甘い物だけ食べて、虫歯になって死ねばいいのだ。 と、ネオンテトラがぷかぷかと浮き出した。あ、死んでる。やっぱ死ぬんだなあ。そんな風に至極冷静な自分は、別に驚きでもなんでもない。当たり前だ。どうだっていうのだ。ぅあたしの可愛いネオンテトラちゃんが死んじゃったのぉ。くぁわいすぉうなのぅ、などと、泣けとでも言うの?誰に、というわけでもなく語りかける。たぶんこれは罪悪感。 水槽のとなりにある、小型のとってつきの、笊みたいなもので、ネオンテトラちゃんたちを、掬う。いや、救う。数えながら。へぇ、七匹だったんだ。ラッキーセブンじゃん、やったあ。バカか。 わたしはネオンテトラ(ちゃん)を、笊ごと、ベランダから捨てた。ベランダの向こうにはちゃっちい花壇が広がっている。そういやそろそろマンション全体の草むしりだわ、なんて思って。 わたしはコーヒーを煎れると、砂糖を砂糖を四杯入れ、かき回さずに飲み干し、あとに残ったコーヒー味の甘い甘い砂糖を、香水の甘い匂いの中で食べた。 するとさっきの「悲しい悲しい」というおまじないがきいてきたのか、急に胸の中に悲しみやさびしさ、あるいは虚無感のようなものが満ちてきて、泣いた。 涙は甘くなくて、しょっぱくて、まずくて、なんだか、生きているって、甘いわけじゃないんだね、と、知ったような口ぶりで、わたしは花壇のネオンテトラたちに、ベランダから愛について語った。 |
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