2013年08月20日(火) |
もはや本田を切るしかないな |
日本代表再建策について、より具体的な提案をしておく。内容が前回と重複する部分もあるが、それは改めて強調したいがためだ。
●危機意識が見られないザックジャパン
サッカー日本代表が危機にある。W杯ブラジル大会の出場を決めた後、すなわち本年6月中旬以降の国際試合――コンフェデ杯、東アジア杯、親善試合のウルグアイ戦まで、日本代表が喫した失点は、以下のとおり。ブラジル0−3、イタリア3−4、メキシコ1−2、中国3−3、オーストラリア3−2、韓国2−1、ウルグアイ2−4。この結果を見れば、日本の守備が崩壊していることは一目瞭然だ。
守備陣が崩壊した要因としては、試合をした相手がこれまでよりも強かったという面もあるが、筆者が当コラムでしばしば書いてきたように、CBのミスによるところが大きい。DFレギュラーでは、今野、吉田のできがきわめて悪い。さらに、東アジア杯では、守備陣については、新たに招集された選手で構成されたにもかかわらず、失点が止まらなかった。ということは、代表監督であるザッケローニの守備に対する戦略、戦術、指示が間違っていると考えたほうが自然だ。つまり、ザックジャパンは、守備に関して間違った意識で練習をし、試合に臨んでいるとしか言いようがない。
ザックジャパンは、監督、選手を問わず、危機意識が見られない。プロスポーツの監督という職業においては、自からの力量を自ら否定しまったならば、その職にとどまることは難しいから、ザッケローニが守備崩壊を認めるはずがない。それは了解できるのだが、選手もそれに同調しているところが誠に気がかりだ。
●ザックジャパンの癌は本田
いまの日本代表のあり方に最も肯定的な選手の一人が本田だ。そして、そのメダルの裏側として、ザッケローニ体制で、本田は「絶対的」存在になっている現実を見なければならない。W杯アジア予選を戦いぬいている間、日本代表は本田がいないと勝てない、という状況になってしまった。それを本田本人が自覚しているかどうか不明だが、最近の本田のコメントを、報道を通じて知る限り、彼を制御できる者が、いまの日本のサッカー業界には存在しないのだな、と筆者は不安を覚える。
本田は、W杯出場決定後、コンフェデ杯(ブラジル)に臨んで、「自分たちは、優勝するつもりでブラジルに行く」と発言した。テレビ画面のそのシーンを見たとき、筆者は本田の真意を計りかねた。本気なのか、それとものぼせ上ったのか、景気づけなのか――まあ、どちらでも構わない。筆者はブラジルでの試合の結果が、本田に日本代表の現状を認識させるだろう、と半ばあきれながらも、見過ごしていた。
そして、コンフェデ杯で日本は案の定、惨敗した。しかしそれでも、本田の高姿勢は是正されなかった。2戦目・イタリア戦の「善戦」が本田の意識を変えることを難しくした。本田は、コンフェデ杯後に至っても、ザックジャパンを肯定し続けた。そして、ホームの親善試合・ウルグアイ戦の惨敗後も、本田の口から反省の弁はもちろん、日本代表に対する危機意識を感じさせるような発言は聞かれなかった。むしろ、この期に及んで、日本の守備を「称賛」したくらいだ。
●本田の錯誤――サッカーは「個の力」という思い込み
本田の一番の勘違いは、サッカーは「個の力」だというところにある。もちろん、「個の力」に負うところは大きいのだが、日本代表の中には、メッシ(アルゼンチン)、ファン・ぺルシー(オランダ)、ネイマール(ブラジル)はもちろん、親善試合で惨敗した相手のウルグアイのスアレス、フォルラン、カバーニ(今回は来日せず)に匹敵する「個の力」を有する選手はないな。「個の力」を力説する本田といえども、スアレス、フォルラン、カバー二の力量に比べれば、本人がどう思っているかは別として、劣ることは明白だ。日本は、ウルグアイに、その主力の一人であるカバー二を欠いて惨敗した。それが日本の「個の力」に頼るサッカーの限界でなくてなんであろう。
本田の錯誤をもっとも鮮明に象徴する最近のコメントを報道のとおり紹介すると、「日本でプレーしている選手は、はやいとこ、海外に出たほうがいい」であろう。海外組を偏重するザッケローニと本田の価値観は、彼のこのコメントからシンクロしていることがよくわかる。
海外でプレーをする経験からだけでは、サッカーがチームプレーを本質とする実体が理解されない。本田のサッカー哲学から導き出された姿勢からでは、格下の日本が強豪を相手にした場合、前線から守備の意識を高めなければ勝ち目はないことが認識されない。前線で守備の意識が高いのは岡崎ただ一人。本田の哲学が浸透した日本代表のレギュラークラス、とりわけ前線の選手(岡崎を除く)たちからは、守備の意識が抜け落ちた。本田が「王様」として日本代表に君臨する限り、日本代表には、チーム一体化した守備意識は醸成されることがない。
●本田は自分を欧州で高く売ろうとしているだけ
本田はなにを狙っているのか――といえば、チームの勝利よりも本田自身の、個人としての結果だろう。彼は欧州のビッグクラブに移籍をしたがっている。欧州のビッグクラブが本田に注目する機会は、彼の現籍であるCSKAモスクワにおける活躍よりも、日本代表でのそれのほうだ。本田は、日本代表が勝利するよりも、自身の活躍のチャンスを優先させている。そして、先述したように、本田をだれも制御できないでいる。ザッケローニ監督ですら、「本田頼み」になってしまっている。
本田の意識を変えることは難しい。それが彼の日本代表における絶対唯一のモチベーションになっているからだ。だから、本田を「王様の座」から引きずり下ろせばいい。本田を控えにまわすか、代表から外すことだ。そして、守備意識を高めたチームに向けて、残り10カ月をかけて、日本代表を改造することだ。このミッションは、ザッケローニに託すべきではない。
●日本が掲げた「攻撃重視」の呪縛
遡って2010年、日本サッカー協会の幹部たちは、日本がW杯南アフリカ大会でベスト8入りを果たせなかった総括として、「攻撃型」へのチーム改造を選択した。守備重視の岡田ジャパンでは、ベスト16が限界だ、だから、攻撃型に代表チームを改造しなければならない――そのようなテーゼに基づき、代表監督選考を開始した。当初は、スペイン人監督を中心に交渉が始められたようだが、難航した。日本代表監督に魅力を感じる第一線級の人材は、欧州ではなかなか見つからなかった。その挙句にようやくたどり着いたのが、イタリア人のザッケローニだった。ザッケローニはその経歴からして、過去の日本代表監督を凌ぐレベルだった。欧州では無名のオフト、アフリカしか実績のないトルシエ、監督素人のジーコに比べれば、代表監督歴はないものの、セリエA、しかもACミラン、インテル、ユヴェントスの「ビッグスリー」を率いたことのあるザッケローニは、その経歴において、それまでの外国人監督を圧倒していた。しかも彼は、日本サッカー協会の意向をよく理解した。
そこから開始されたのが、本田を中心とした日本代表のチームづくりだった。そのときを前後して、GK川島、DF長友、DF吉田、MF長谷部、MF細貝、MF清武、MF香川、FW岡崎、FWハーフナー…と、欧州クラブに移籍を果たした選手たちが、代表入りを果たした。それは大変結構な傾向で、日本よりレベルの高いリーグで試合の経験を積めば、本田が言うように、「個のレベル」はアップする。そうなれば必然的に代表チームのレベルも上がる。このような流れを自然だと考えない人は皆無だろう。
ところが、それがそうではない。海外一流リーグに人材を送り込んでいるのは、むろん、日本だけではない。どころか、W杯ベスト8を常連とする中南米、アフリカ等の国では、ほぼ代表全員が日本で言う「海外組」だ。アジアでは、オーストラリアが日本より多くの選手を欧州各国に送り込んでいる。だから、日本はオーストラリアに公式戦で勝てない。欧州では、自国の代表選手でも、自国のクラブのレギュラーになれないケースもある。つまり、日本選手がいま実践できている程度の海外移籍はグローバルに見れば、たいしたことはない。世界も進歩している、しかも、そのテンポは日本よりも早い。
●ジーコジャパンに酷似してきたザックジャパン
このような錯誤は、ジーコジャパンでも見られた。2002年W杯日韓大会でベスト16入りを果たした日本(トルシエ代表監督)は、その後、多くの選手が海外移籍を果たすようになった。ところが、トルシエの遺産をうまく使いこなせなかったのが、ジーコだった。
2006年W杯ドイツ大会の日本代表登録メンバーのうち海外組は、DF;中田浩二(スイス/FCバーゼル)、MF;中田英寿(イングランド/ボルトン)、中村俊輔(スコットランド/セルティック)、稲本潤一(イングランド/ウェスト・ブロムウィッチ)、FW;高原直泰(ドイツ/ハンブルガーSV)、大黒将志(フランス/グルノーブル)だった。なお、小野伸二は日本の浦和レッズ所属だが、直前までオランダのフェイエノールトにいた。 小野を含めて実に7選手が海外組だった。これは当時としては驚異的な出来事だった。ジーコ(当時代表監督)は海外移籍組に全幅の信頼を寄せ、彼らを使い続け、W杯ドイツ大会で予選敗退した。
コンフェデ杯ブラジル大会ではどうだっただろうか。GK;川島永嗣(ベルギー/スタンダール・リエージュ)、DF;長友佑都(イタリア/インテル・ミラノ)、内田篤人(ドイツ/シャルケ)、吉田麻也(イングランド/サウサンプトン)、酒井宏樹(ドイツ/ハノーファー)、酒井高徳(ドイツ/シュツットガルト)、MF:長谷部誠(ドイツ/ウォルフスブルク)、細貝萌(ドイツ/ヘルタ)、本田圭佑(ロシア/CSKAモスクワ)、FW;岡崎慎司(ドイツ/シュツットガルト)、ハーフナー・マイク(オランダ/フィテッセ)、乾貴士(ドイツ/アイントラハト・フランクフルト)、香川真司(イングランド/マンチェスター・ユナイテッド)、清武弘嗣(ドイツ/ニュルンベルク)と、海外組は実に14人に上り、ドイツW杯時の2倍、日本代表史上、空前の海外組日本代表チームだった。
●走力を生かし、チームに献身する姿勢を全員が取り戻せ
海外移籍選手が増えれば増えるほど、日本代表は強くなる――はずなのだが、実際はそうではない。むしろ、サッカーの質は、ザッケローニが日本代表監督に就任した当時よりも悪くなっているように思える。就任当初、ザックジャパンは相手を完封して勝つ試合が多かったように記録上は見えるのだが、この結果は、相手が弱かっただけ。結果よりも、内容としての最近のザックジャパンの欠陥は、運動量、走力が落ちていることだ。その主因は、W杯ブラジル大会予選を勝ち抜いて、気が緩んでいるためだ。そして、先述のとおり、本田を筆頭とする「個の力」崇拝がチームに浸透した結果、守備によるチームへの献身の意識を、チーム全員が失ったためだ。意識のないところに、行動が起こることはあり得ない。
だから繰り返す、ザックジャパンは本田を代表から外し、「本田イズム」を一掃し、走力をもった、体力の強い、献身的な選手を選考し直し、チーム再構築を果たさなければならない。そうしないで、代表メンバーを多少入れ替えたくらいでは、泥沼状態はW杯本番まで続くことになる。
そして、このミッションを託せる代表監督は○×▽しかいない。
|