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2013年08月27日(火) 吉田麻也を潰したザッケローニ

サッカー日本代表の守備崩壊について、もう一度、整理をしておこう。繰り返し当コラムで書いたことだが、日本代表がW杯ブラジル大会行きを決定した後、コンフェデ杯、東アジア杯、親善試合のウルグアイ戦まで、信じられないような大量失点の試合が続いた。そこで重要なことは、守備崩壊の原因究明だ。考え方として、次のような整理が可能だろう。

(1)ザッケローニ代表監督の守備に関するロジックが間違っているのかどうか、
(2)守備の選手の選考が間違っているのかどうか、(換言すれば、監督の選手の起用法の是非)
(3)ザッケローニ監督がW杯本番を前にして、勝敗を度外視して、チームをテストしているのかどうか。

結論を先に言えば、このような一般的原因究明のための複数のアプローチは不用だった。守備崩壊の原因が簡単明快に明らかになった。CB吉田麻也のコンディション問題だ。

先日、イングランドプレミアリーグが開幕したにもかかわらず、吉田は所属するサウサンプトンの試合に出ていない。2試合目も不出場。報道によると、「(吉田欠場は)昨季終盤の股関節負傷の影響か」との質問に、サウサンプトンのポチェッティーノ監督は「彼は(その状態で)コンフェデ杯に望んで出場した。そして開幕前キャンプの開始に遅れた」と返答。負傷の治療よりコンフェデ杯参加を優先した決断に疑問を呈したという。

コンフェデ、ウルグアイ戦において、DF吉田麻也の状態が普通でないのは、素人にも明らかだったが、ザッケローニは吉田を使い続けた。そして彼の選択は最悪の結果を招いた。ザッケローニは、吉田を潰す覚悟で日本の勝利を目指したにもかかわらず、その吉田の動きの鈍さのため日本は惨敗を重ねた。それだけではない。案の定、吉田はプレミアリーグの開幕に間に合わなかった。吉田のサウサンプトンにおけるレギュラーの座も危うくなった。

結果論と言われようと、筆者の考えとしては、吉田に配慮して、コンフェデ杯、ウルグアイ戦は代表に呼ばず休養させ、早くにクラブ(サウサンプトン)に戻すべきだった。しかし、ザッケローニはそうしなかった。

海外でこのようなことが起きれば、海外メディアはすぐ反応し、ザッケローニ批判が起きただろう。だが、日本のメディアは、管見の限りだが、吉田の故障に触れず、ザッケローニ批判もしなかった。日本では、選手は所属するクラブのものだという認識が薄く、代表がすべてに優先するような風土がある。コンフェデで強豪を相手になんとか1勝を――というのがザッケローニの思いだったのか。

筆者は、「吉田問題」の本質として、代表監督の危機管理という視点を重視したい。ザッケローニの「故障者吉田の起用」は愚行であり、代表監督失格である。サッカーは人間がするスポーツなのだから、怪我や故障はつきもの。いつでもベストメンバーで戦えるわけではない。バックアップメンバーでもクオリティーが落ちないような備えをすべきだ。

日本代表のDFの選手起用について、たとえば、吉田・今野のCBコンビがベストだとするならば、それはそれでいい。しかし、控えにどういう備えをするかがさらに重要な事項となる。たとえば、ベテランの闘莉王・中澤佑二を入れておくという手もある。もしくは、中澤だけ入れておいて、栗原勇蔵とのマリノス・コンビでCBを形成するという選択肢もあるのではないか。前任者が選んだ選手は起用したくない、という意地のようなものは必要ない。海外組の吉田に比重をかけすぎた結果が、最悪の事態を招いたのだから。

ならば、もう一人のレギュラーのCB今野泰幸はどうなのかだが、筆者は今野の才能をユーティリティーに見出す。彼は本来、CBの選手ではない。だが、CBもできる選手。3バックのリベロが最適役だろう。3バックがなじまないいまの日本代表の場合、今野はその器用さゆえ、守備の控えとして、代表選手に選出させておきたい。CBはもちろん、ボランチ、SBも可能だ。今野がベンチに入るだけで、4つのポジションの控えが可能となる。

守備崩壊はCBだけの問題だけではない。守備的ミッドフィルダー(ボランチ)の選考にも頑なさがみられる。「日本の心臓部」といわれるボランチは、遠藤保仁と長谷部誠で鉄板とされてきた。遠藤はドイツ大会、南アフリカ大会と、2度のW杯を経験(ドイツ大会は試合出場なし)した超ベテラン。長谷部は日本代表のゲームキャプテンを務めている。彼らの功績によって、アジア予選を勝ち抜けたと言って過言でないかもしれない。ところが、アジアレベルでは有能な彼らが、格上を相手にしたとき、必ずしもその有能ぶりが機能するとは限らない部分もなくはない。

遠藤・長谷部の2人のボランチ・コンビをどう考えるか――は、日本が世界のトップレベルと戦う場合のゲームプランのたて方に直結する。どんな相手であっても、攻めて勝つのだ、という玉砕戦法をとるならば、遠藤・長谷部で構わない。しかし、少ない確率だがあくまでも、勝利もしくは勝ち点を目指すのならば、ハードワークのできるボランチに差し替える手もある。その場合、大雑把に言えば、ボランチに、相手の攻撃の芽を摘むという役割を担わせることになる。では6人で守るのかと反論されるが、そうではなく、攻守の早い切り替えが可能となる選手を起用する、という意味だ。

日本はW杯アジア予選を通じて、固定メンバーによる組織性を重視したことは理解できる。しかし、W杯本番に限らず、世界の強豪相手に試合をするという前提で代表チームを点検するならば、より広い視野が必要となる。90分間、走れるフィジカルをもつ選手を中心にチームを再構築してほしい。


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