| 2013年10月13日(日) |
セルビアにあって日本にないもの |
◇国際親善試合:セルビア2−0日本(10月11日、セルビア・カラジョルジェスタジアム)
●若手起用のセルビア、ベストメンバーの日本
日本がアウエーでセルビアに負けた。セルビア代表はすでにW杯ブラジル大会欧州予選で敗退が決まっている。日本戦に係るセルビア側の位置づけは、セルビアの名選手デヤン・スタンコビッチの引退試合ということ。セルビア代表から、欧州の強豪リーグに所属する、アレクサンダル・コラロフ(マンチェスター・シティ/イングランド)、ネヴェン・スボティッチ(ドルトムント/ドイツ)、リュボミール・フェイサ、フィリップ・ジュリチッチ、ラザル・マルコビッチ((以上ベンフィカ/ポルトガル)、アレクサンダル・ミトロビッチ(アンデルレヒト/ベルギー)といった主力選手が外れた。典型的なフレンドリーマッチ(親善試合)であり、セルビア代表に勝利のモチベーションを期待することは難しいと思われた。
一方、セルビアに乗り込んだ日本はご承知のとおり、W杯出場をすでに決めていて、この試合は本大会までの強化が目的だ。選手側に立てば、レギュラー組はその地位を明確にしたいところであろうし、控え組はレギュラーを上回る働きをして、地位逆転を計りたいところ。モチベーションに関しては、日本がセルビアを上回ることに疑う余地はないと思われた。しかも、前出のとおり日本の先発はベストメンバー。故障と報道されたMF遠藤もボランチで先発(しかも90分フル出場)だ。アウエーとはいえ、日本は勝ちを目指していることは明らか。もちろん、W杯出場を決めた実力をセルビアに見せつけたいところだ。勝たなければいけない。
ところが、ところが、終わってみれば日本は0−2の完封負け。試合を通じて日本はボールをやや支配するもパスミスが多く、相手守備陣を脅かすシーンをつくれない。日本の得点機は1度だけ――それを香川が外した。
●セルビアの勝因は
セルビアの勝利の要因はどこにあるのか。現地取材をしていないのでTV映像による印象を記せば、以下のとおり。試合の戦術や技術、作戦という次元ではない。サッカーを取り巻く国情の違いという面が大きいのではないか。
・起用された若手選手のモチベーションの高さ ・伝統的に強い守備力 ・フィジカルの強さ ・選手層の厚さ
筆者がそのように考えた根拠は、NHKBSで12日の20:00から放映された、「ワールドウエイブ・W杯予選の最も熱い日 〜セルビア 対 クロアチア サポーターたちの闘い〜」に基づく。同番組は、セルビア―日本の試合の再放送の直前に放映されたもので、筆者が見たのは偶然であった。最初の放映は9月14日(土)22:00〜22:49、9月15日(日)11:00〜11:49であったらしい。日本がセルビアと試合をしたため、試合の再放送に合わせて、再再放送されたものと思われる。
●セルビアのサッカーの根底にあるもの
同番組の概要は以下のとおりである。旧ユーゴスラビア崩壊後の内戦で骨肉の争いをしたセルビアとクロアチア。その両民族が9月6日、セルビアの首都ベオグラードのスタジアムでW杯ブラジル大会予選を戦うことになった。ユーゴ内戦は複雑な戦争だった。昨日まで友人だった者同士が内戦当日、敵味方となって殺し合った。そんな両民族が終戦後独立し、初めてサッカーの試合をすることになった。だから、両国の試合はサッカー史上、最も熱い一日になるかもしれないと。
番組は両国のサポーターの生活を映し出す。90歳を超えるセルビアの老サポーター。この老人はかつて、セルビアが負けた試合で自殺未遂をしたこともあったという。毎朝、スポーツ新聞をよろよろ歩きながら買いに行く老人にとって、サッカーのない人生は考えられない。
そして、もう一人、サッカースクールに通うセルビアの17歳の少年。内戦で家を失い難民化した彼とその家族はセルビアの首都郊外において、コンテナハウス(仮設住宅)で暮らしている。その家族が年収の何分の一にも匹敵するクロアチア戦のチケットを少年のために購入する。家族も少年も、サッカーで成功することが、いまの生活から脱する唯一の手段となっている。
かたやクロアチアのサポーターとして、一人の芸術家が登場する。彼は旧ユーゴ内戦の記憶を絵画のテーマとしていて、その画筆はあくまでも暗い。だが、この画家はセルビアとの融和を願っている一人でもある・・・
宿敵同士の一戦を前に、両国サポーターの積年の憎しみ、ナショナリズムが燃え上がる。試合当日、試合直前の両国国歌演奏では、アウエーのクロアチア国歌は罵声でかき消される。両国キャプテンが朗読するフェアプレーの宣誓においても同様だ。
試合開始の笛、クロアチア先制、セルビアが同点に・・・結果はドロー。ホームで勝てなかったセルビアだが、スタジアムが混乱することも、選手同士が乱闘することもなかった。
セルビア、クロアチアはサッカー通じて融和したのか――もちろん、この番組からはわからない。しかしながら、セルビア、そして、クロアチア両国におけるサッカーを取り巻く風土は、明らかにわが日本国と異なっていることだけは明らかである。
●どん底の生活から這い上がるためのサッカー
さてさて、セルビア―日本の試合に戻ろう。今回の日本戦で試験的に投入されたセルビアの若手のモチベーションは筆者の想像を超えて高かった。前出のとおり、母国セルビアの生んだ名選手・デヤン・スタンコビッチの引退試合=国中の注目が集まる親善試合、しかも相手がW杯出場を決めた日本が相手となれば、若手は自らの力をアピールする絶好の機会ととらえたとしても不思議はない。そのことは前出のセルビアの17歳の少年の映像からもうかがいしれる。あの少年にとって、その家族にとって、現在の難民のどん底生活から這い上がる唯一の手段がサッカーなのだ。
一方の日本は、ボールがおさまらない、ミスが目立つ。セルビアにあって、日本にないもの――それは、サッカーを取り巻く“現実”の違いだろう。セルビアのような、W杯出場常連国ではない欧州の中堅国には、それなりの厳しい現実社会があり、彼らは厳しい生活から這い上がるために、フィジカル的にも精神的にも鍛練を重ねる。うまくなりたいためにサッカーをするのではなく、生きるためにサッカーをする――その違いだ。そこで積み上げられた(日本との)差異は、負けないための強さを長い年月をかけて育む。その強さ、したたかさが、ホーム(日本からすればアウエー)において選手の魂の中から強く意志表示され、自軍の勝利につながっていく。
●日本代表選手の脆弱さ――競争意識の欠如
日本代表選手はその点において、脆弱きわまりない。日本の代表レギュラー組は、代表戦で決定的チャンスを外しても、レギュラーの座が確約されていて、代表チームを追われることはない。選手層が薄いのだ。海外チームで試合に出場できなくとも、Jに戻ればレギュラーだし、代表選手の肩書を得ていれば引退しても食べていける。だから、日本代表に逞しさが身につかない。日本サッカーが誇る“戦術・技術・組織性”の優位性が、セルビアの泥臭い「生活」を賭けた逞しさを上回ることができない。このことは、中南米、アフリカ諸国のサッカーと日本との差異に共通する。
●日本プロ野球にも劣る日本サッカー界の選手層の薄さ
日本プロ野球(NPB)界のほうが、日本サッカー界よりも厳しい。まず日本のフィジカルエリートは、野球を志すことが多く、NPB選手は日本のプロサッカー選手より、身長でおよそ5〜10�僂曚評絏鵑襦�ちょうど欧州のサッカー選手の標準くらいがNPB選手の体格に匹敵する。競技・運動の質が異なる野球とサッカーを比較しても意味はないが、体格面で日本サッカー選手はかなり劣っているのが現実だ。それに準じて、フィジカル面が弱い。NPBの選手もアメリカメジャーリーグ(MLB)選手よりは落ちるがその差は、サッカーより小さい。さらに、国内において、NPB選手の方がサッカー選手よりも厳しいプレッシャーに晒されている。日本のプロ野球の開始は1936年とされるから、80年弱の歴史をもっていて、サッカー(Jリーグ)の20年とは比較にならない。NPBが、五輪・WBC等の野球の世界大会で常に優勝を狙える地位にあるのは、長年のプロの歴史をもつが故ともいえる面を否定できない。
●日本サッカーはまだまだ、これから
日本が自分たちのスタイルを貫いて欧州の中堅国やアフリカ勢に勝つには、日本独自のサッカー文化を育む「時間」を必要としている。時間とは歴史である。サッカーのようなチーム競技の場合は、一人の傑出した天才が世界一に輝く競技とは異なる。いわば全体の底上げがチーム力に結集する。いや結晶するといったほうがいいかもしれない。
日本サッカーでは本田、香川、長友、内田が世界レベルだと言っても、チームでたった4人、しかも、本田は欧州の強豪リーグでプレーした経験をもっていないし、香川は世界最強チームの一つに所属しているがレギュラーではない。内田もドイツのトップチームでプレーしているわけではない。唯一、長友だけが世界レベルのクラブのレギュラーの地位を確保しているにとどまっている。この現実から世界を見れば、セルビアとの差は明らかだ。
セルビアは、日本戦の先発で、DFのマティヤ・ナスタシッチ(マンチェスター・シティ)、アントニオ・ルカヴィナ(バジャドリード/スペイン)、ブラニスラフ・イヴァノヴィッチ(チェルシー/イングランド)、ネナド・トモヴィッチ(フィオレンティーナ/イタリア)、MFのイバン・ラドヴァノヴィッチ(キエーヴォ/イタリア※引退顔見世のスタンコビッチに代わって試合開始すぐに交代出場)、ネマニャ・マティッチ(ベンフィカ/ポルトガル)、ドゥシャン・バスタ(ウディネーゼ/イタリア)、FWのドゥシャン・タディッチ(トゥウェンテ/オランダ)、フィリプ・ジョルジェヴィッチ(ナント/フランス)らが出場している。
さらに、日本戦に欠場した主力として、前出のとおり、アレクサンダル・コラロフ(マンチェスター・シティ/イングランド)、ネヴェン・スボティッチ(ドルトムント/ドイツ)、リュボミール・フェイサ、フィリップ・ジュリチッチ、ラザル・マルコビッチ((以上ベンフィカ/ポルトガル)、アレクサンダル・ミトロビッチ(アンデルレヒト/ベルギー)、ミラン・ビシェヴァッツ(リヨン/フランス)らがいる。
●大手代理店が仕組む「日本代表ブランド」の異常性
日本代表の国内親善試合の場合、海外組である主力が外れると大騒ぎになるが、セルビアでは話題にもならないようだ。そこに日本代表が置かれた日本国内における異常性がある。日本代表の親善試合の相手はコンディションの悪い外国代表チーム。一方、日本代表は海外から主力選手を呼び戻してベストメンバーを組み、準備万端整えて迎え撃って勝利する。
そうすると日本のFIFAランキングが自動的に上がり、日本の国内サポーターは日本がサッカー強豪国になったかのように錯覚する。日本代表監督は特権的地位を獲得し、その采配や選手起用に疑問の声が上がろうとも圧殺される。メディア(サッカージャーナリスト)は代理店のポチだし、サッカー評論家は就職活動に支障が出るから、代表サッカーへの批評・批判をまともに行わない。甘やかされた代表選手は世界のビッグクラブへとの契約ばかりに頭がいってしまって、代表サッカーをそのステップアップとしかとらえないから、規律・組織性が育まれない。その代表格が本田であるのだが、本田を外すと日本代表はアジアでも勝てなくなる・・・
こんなことは、当該コラムで飽きるほど書いてきた。さて、こんどの欧州におけるアウエー強化試合で日本代表が構造的反省を求められたとしても、ブラジル大会まではそれを再構築する時間がない。このような状況は、岡田ジャパンでもあったことだが、その岡田ジャパンが南アフリカ大会で予選リーグを突破したため、日本の弱さが根底的に批判されずに4年近くが経過してしまった。
日本が強くなるためには、アジアで負ける以外に道はない。日本代表がW杯から解放されれば、逆説的だが、創造的かつ根底的な日本サッカー再構築のアプローチが見いだせる。日本代表がアジア予選で敗退することが、最短、最良の日本代表強化策とは情けないし知恵がない。しかし、それしか方法が見いだせないくらい、日本サッカーの未来は明るくない。
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