2014年03月21日(金) |
道を間違えたJリーグ |
サッカーJリーグのクラブチームがアジアで苦戦している。東アジア地区ではE組のC大阪が4チーム中3位(勝点4)、F組の広島が同2位(勝点4)、G組の横浜が同最下位(勝点1)、H組の川崎Fが同3位(勝点3)と、広島以外は序盤で低迷中だ。
この結果は偶然ではない。Jリーグ各クラブが取り組んできたサッカーは、世界標準から外れている。Jリーグのガラパゴス化。日本の生ぬるいサッカー風土のなか――いわば楽園で、独自の進化を遂げてしまったようだ。
◎フィジカルの弱さ
Jリーグからの出場クラブが勝てない理由はいくつかある。その第一がフィジカルの弱さ。C大阪はホームで山東魯能(中国)に1−3で負け、横浜はアウエーで全北現代(韓国)に0−3で負け、H組の川崎Fもアウエーで蔚山現代(韓国)に0−2で、また、ウエスタンシドニー(オーストラリア)に0−1と完封された。
横浜が全北現代に0−3で負けた試合は悲惨だった。全北がフィジカルと気力で押しまくり、横浜はサッカーがまったくできなかった。日本人選手は球際が弱いと言われるけれど、そういう問題ではない。サッカーに対する基本的姿勢の違いだと思う。Jリーグの選手たちはACLでケガをしたくない、今年はW杯イヤーだからJでいいプレーをすれば代表入りもあるかもしれない、なんて思ってはいないだろうけれど、結果的にはそのように見えてしまう。とにかく腰が引けている。
フィジカルと言うと、身体の大きさ、筋量の多さ、スタミナだと思われるが、サッカーの場合、それに走力と俊敏さが伴わなければ意味がない。横浜と全北の試合では、全北の推進力、速さ、そして競り合いに勝てるパワーが横浜を上回っていた。練習量の差と言うよりも、練習の質の違い、試合に求められる選手としての資質の差と言うほかない。
川崎Fが蔚山に0−2で負けた試合は、後半、試合終了近くに川崎Fはガソリンが切れたように失速、連続で2失点した。川崎Fの選手には90分走りきる体力(フィジカル)がない。
横浜がアウエーでメルボルン・ビクトリー に0−1で負けた試合も、横浜の選手のフィジカルの弱さを象徴する試合内容だった。ボールキープでは圧倒的に横浜が優位を保ったし、チャンスの数も横浜の方が圧倒的に多かった。しかし、前半早々に1点リードしたメルボルンはカウンターに絞り込んだ戦術を採用。横浜は失点こそ1点にとどまったが、しばしばそれにはまった。メルボルンが横浜を苦しめることができた要因は、メルボルンの前線の選手の90分間持続して走れるフィジカルの強さだった。
◎チームづくりの差
日本のサッカーがクラブレベルでアジア、しかも東アジア地区で勝てなくなった要因は、フィジカル面だけにとどまらない。選手補強という面も見逃せない。日本以外のアジアの強豪クラブの方が、欧州、中南米の外国人選手の補強においてJリーグの各クラブを上回っている。資金力の差か、それともネットワークの差なのか、その両方か。
Jリーグの各クラブは、近隣国で実績のあった外国人選手を補強する傾向が強い。中国、韓国、中近東の各クラブの“お下がり”を補強している。日本は日本以外のリーグで活躍した外国人選手をその実績を評価して獲得してくるが、放出した側の日本以外のアジアのクラブは、その代替として、放出した選手以上の選手を入団させる。だから、Jのクラブの外国人選手よりも、優秀というわけだ。
◎レフェリングの差
Jリーグの審判団の判定基準もJリーグ弱体化の遠因をなしている。Jリーグの審判団は優秀だと言われている。判定は公正にして、ファウルに厳しい。だが、世界標準からみると、ファウル、イエローの判断が厳格すぎる。前出の全北現代と横浜(開催地/全州)の試合では全北の激しいチャージはすべからく正当な接触プレーと判定されている。この試合の主審がホームである全北を贔屓したというわけではない。横浜は全北の圧力に圧倒され、満足にボールをキープするこができなかった。Jの日本人主審の試合ならば、全北のプレーがことごとくファウルと判定されたような気がしてならない。
相手の圧力に耐えるパワーもなければ、それをかわす俊敏さもない。いわゆる“やられっぱなし”の完敗だ。ケガを恐れたのかどうかはわからない。ただ言えることは、すべてのスポーツにおいて、ケガを恐れて気持ちを引けば、それがケガを招くことになる。相手に対しても自分に対しても気合を入れなければ、ケガをする確率が高まる。
◎クラブ経営の差
Jリーグは「経営」を重視するあまり、拙コラムで繰り返し書いている通り、ダウンサイジングで収支バランスをとろうとしてきた。縮小均衡だ。しかし、このような守りのクラブ運営では、試合の質を維持することは難しい。観客数は減少するし、メディアの露出も減る。社会から関心を払ってもらえなくなる。当然、サッカーといえば日本代表という空気が醸成されてしまう。海外クラブに移籍した選手で構成された日本代表の付加価値が異常に上昇し、メディアのドル箱となり、日本サッカー界から、Jリーグが脱落してしまう。
Jリーグから見れば、優秀な選手たちの海外移籍がその凋落の要因だと見なされる。日本人選手の欧州のビッグクラブ移籍は喜ばしい反面、話題先行の歪みも認められる。欧州のビッグクラブは、ジャパンマネー目当てで日本人選手を受け容れる。しかし、リーグの試合でレギュラーになれる選手の数は、移籍選手の数に比べ少数にとどまっている。3月21日現在、欧州のクラブでまともに試合に出場しているのは、岡崎(ドイツ)、長友(イタリア)、川島(ベルギー)、細貝(ドイツ)の4選手のみ。酒井高、酒井宏、清武(いずれもドイツ)がそれに続く程度。
本年はW杯イヤーということで多くの海外移籍選手がJリーグに復帰したが、それでも、海外に「移籍しただけの選手」が多すぎる。その代表が香川(イングランド)で、マンチェスターユナイテッドは香川によって、日本の多くの企業とオフィシャルサプライヤー契約を結ぶことに成功した。香川は戦力というよりも、ジャパンマネーの集金マシーンとして機能している。もちろん、オフのアジアツアーでも香川は必要とされるだろう。だから香川は、ベンチ入りは果たすが、試合に出場できない。
このような傾向を脱すべく、C大阪がフォルラン(ウルグアイ代表)を獲得したことを評価したい。Jの各クラブがC大阪に続いてほしい。Jのクラブに求められるのは、積極拡大路線だ。
いずれにしても、Jのクラブチームが東アジアで勝てなくなった傾向は、日本サッカー全体の弱体化に直結する。いまはドル箱の日本代表だが、W杯アジア地区予選で敗退すれば、日本のサッカー人気は一気に凋落する。そもそも代表サッカーはイベント的要素が強すぎて、地域に根を持たない特殊装置。広告代理店主導のお祭りに近い。日本のサッカー人気は、いわば代表バブルとでも言う異状な状態なのだ。地域に根付いたクラブがサッカーの人気・実力を支えるという正常な状態に早く戻さなければ、大変なことになる。
ACL東地区試合結果(3月21日現在) 注:( )内は開催地
E組=C大阪は勝点4の3位。 2月25日 浦項 1−1 C大阪(浦項) 2月25日 山東魯能 1−1 ブリラム(済南) 3月11日 C大阪 1−3 山東魯能(長居) 3月11日 ブリラム 1−2 浦項(ブリラム) 3月18日 C大阪 4−0 ブリラム(長居) 3月18日 浦項 2−2 山東魯能(浦項)
F組=広島は勝点4の2位 2月25日 広島 1−1 北京国安(広島) 2月25日 FCソウル 2−0 セントラルコースト(ソウル) 3月11日 北京国安 1−1 FCソウル(北京) 3月11日 セントラルコースト 2−1 広島(ゴスフォード) 3月19日 北京国安 2−1 セントラルコースト(北京) 3月19日 広島 2−1 FCソウル(広島)
G組=横浜は勝点1の4位 2月26日 広州恒大 4−2 メルボルン・ビクトリー(広州) 2月26日 全北現代 3−0 横浜(全州) 3月12日 メルボルン・ビクトリー 2−2 全北現代(メルボルン) 3月12日 横浜 1−1 広州恒大(横浜) 3月18日 メルボルン・ビクトリー 1−0 横浜(メルボルン) 3月18日 広州恒大 3−1 全北現代(広州)
H組=川崎Fは勝点3の3位 2月26日 ウエスタンシドニー 1−3 蔚山現代(シドニー) 2月26日 川崎F 1−0 貴州人和(等々力) 3月12日 蔚山現代 2−0 川崎F(蔚山) 3月12日 貴州人和 0−1 ウエスタンシドニー(貴陽) 3月19日 ウエスタンシドニー 1−0 川崎F(シドニー) 3月19日 蔚山現代 1−1 貴州人和(蔚山)
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