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2014年03月23日(日) センバツ、都立高校大敗に思う

◎日本の甲子園出場校はプロ野球マイナーリーグのレベル

今年の第86回選抜高校野球大会(「センバツ」)は興味深かった。「21世紀枠」という筆者にとってはわけのわからない制度で、東京都立高校の小山台がセンバツに出場したからだ。その小山台は3月21日の第一回戦で大阪の履正社と対戦し、0−11、しかも1安打で大敗した。小山台が履正社2年生右腕の溝田悠人から奪った1安打というのも、9回、当たり損ねの小フライが内野手の間に転がり、一塁、間一髪セーフというギリギリの代物。1塁審判の無粋な判定でノーヒットノーランを辛うじて逃れたものだった。

筆者の興味の中心は、いわゆる一般的な高校のクラブ活動の野球と甲子園出場強豪校のそれとのレベルの差であった。小山台の相手履正社は、強豪校がひしめく大阪でセンバツ出場回数4年連続6度、夏の出場回数も2回という実力校だ。はたして、実績、試合結果、試合内容からして、両校の実力差は歴然、プロとアマ以上の開きがあった。やっぱりね〜。

単純に言って、春のセンバツ、夏の大会を問わず、甲子園に実力で出場を決める高校の野球レベルは、一般的な高校のスポーツクラブ活動の次元を越えている。強豪校が行っているリクルーティング、練習量、練習の質、指導者の質と指導方法は、プロ野球並みの専門領域に入っているようだ。言ってみれば、日本の高校野球強豪校のあり方は、米国のマイナーリーグに近い。

◎米国のマイナーリーグは厳しい

米国のマイナーリーグは上からトリプルA、ダブルA、アドバンスト・シングルA、シングルA、ショートシーズン・シングルA、ルーキーリーグの6段階に分かれている。米国においてドラフト指名以外でプロ野球選手になりたければ、まずルーキーリーグでマイナー契約をし、その頂点であるMLBを目指すならば前出の6階段を昇らなければならない。

一説によると、2012年ドラフトで日ハムに1位指名された大谷翔平は、当初米国MLB行きを宣言していたが、米国のシステムを日ハムから聞かされて、恐れをなして日ハム指名を受けたと言われる。大谷の場合、MLB球団がメジャーリーグ契約をするかどうかわからなかったのではないか。だから、大谷を米国野球から日本野球に心変わりさせたのは、ルーキーリーグを出発点にして上に上がる厳しさだったのではないか。

米国のマイナーリーガーの場合、給料はないに等しく、その薄給もすべて食費に消えていくという。移動はバスか長距離の場合は飛行機のエコノミー、ホテルも最低レベルだという。だからマイナーの選手たちは野球以外の仕事で食いつなぎながら、試合で結果を残そうと努める。マイナーの多くの選手が、妻や恋人から経済的支援を受けているともいう。最下層のルーキーリーグであれば、その厳しさは日本人の想像を超えたものであろう。

◎日本の甲子園選手が米国球団とマイナー契約するのはハイリスク

一方、日本の高校野球はそんな心配はない。強豪校に入学すれば、まず身分は高校生として保証され、学割等の社会的恩恵に与れる。給料はないが最低でも寮と呼ばれる宿舎(食費不要)が手に入る。特待生ならば授業料すら免除される。一日野球漬けで、アルバイトで生活費を稼ぐ必要もない。大谷がマイナーの最下層であるルーキーリーグからスタートしたとしたら、それまでの高校時代が天国に思えたことだろう。

大谷の実力ならば短期間で上に上がれるだろうが、厳しいマイナー時代にケガや故障や事故の心配がないとは言えない。だからそれよりは日本野球で実績を残し、松坂やダルビッシュのようにポスティングで直接MLB球団と契約したほうが合理的だ。マイナーで過ごしている間の年収よりも、日本球団に属している間の年収のほうがはるかにいい。さらに、日本球団を経てMLBと契約した場合、その契約金は田中将大の場合、なんと「7年、1億5500万ドル(約161億円)」まで跳ね上がった。田中は日本球団(楽天)に7シーズン在籍しただけだ。

◎大谷はメジャー契約を内定させていたのだろうか

大谷が日本球団を経ずに米国球団とマイナー契約した場合、ルーキーリーグからスタートしてMLBに登り詰めるまで7年かかるかどうか微妙なところだが、7年かからないにしても、大谷の収入という観点からすれば、日本の球団を経たほうが米国よりも上回る確率の方が高い。さらに日ハムとポスティングによるMLB移籍を契約条項に入れていれば、大谷が日本球界で実績を残せば、日本球団を経てMLBとメジャー契約したほうが、収入面ではるかによい。

◎メジャー契約しても3年3億円程度

しかし、大谷ほどの実力の選手ならば、米国球団がメジャー契約する可能性がないとは言えない。例えば、いまボストンレッドソックスで活躍している田澤純一投手の事例だ。田澤の場合、3年総額400万ドル(約3億8000万円)のメジャー契約だった。

田澤は高校卒業後、2005年に新日本石油に入社。ドラフト指名解禁年の2007年には複数の球団が大学・社会人ドラフトの1巡目(希望枠)候補として検討していたが、リリーフ失敗など前年に比べると精彩を欠いたこと、また秋から挑戦した先発転向も結果が残せなかったことなどから残留を表明。翌年(2008年)、復活を遂げ都市対抗野球大会等で大活躍し、大会MVPに当たる橋戸賞を受賞した。と同時に記者会見でメジャーリーグ挑戦の意思を表明し、日本プロ野球12球団宛にドラフト指名を見送るよう求める文書を送付した。

◎米国行き宣言はドラフト破りの隠れ蓑

大谷も田澤のケースに似ていたが、米国球団からメジャー契約の内定を得ていたのかどうか不明だ。日ハムが米国行きを宣言した大谷を敢えてドラフト1位指名(単独)し、入団にまでこぎつけられたのは、日ハムが大谷サイドはメジャー契約の内定を得ていない、という情報をつかんでいたからではないか。

だから、日本球団は、ドラフト会議前に米国行きを表明したアマチュア野球選手の「ドラフト拒否宣言」を信じてはいけない。かりにそのような報道があったとしても、米国球団とマイナー契約をするほどの度胸はないと考えたほうがいい。○○は読売以外に指名されたら米国行きだ、というような報道があったとしたら、それは特定球団=読売と密約を交わした、ドラフト破りのリーク情報だと考えるべきだ。

筆者はかつて拙コラムにおいて、大谷は日ハムと密約を交わしていたのではないか、と書いた。米国球団が大谷の才能を十分認めつつも、高校卒ルーキーとメジャー契約をするのかどうか。米国MLB球団の判断を知りたかったものだ。そういう意味で、日ハムに大谷を1位指名してほしくなかったのだが、いまさら言ってもはじまらない。

今後、特定球団と密約を交わしつつ、表向きは「MLB行き」を宣言するようなドラフト破りが横行しないことを祈っている。


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