lucky seventh
DiaryINDEX|past|will
2004年12月02日(木) |
ライト・ライト・エンドノワール |
人が気付くのはいつも一番最後、 でもだからって、言い逃げだなんて酷いよ。
“ライト・ライト・エンドノワール”
彼女は言った。
「こんな人生死んでもいいかな。」
そんな風に言ってしまう彼女が、とても悲しい人に見えた。 とても美しい造作なのに、どこか人形めいた彼女の渇いた瞳に、 僕は彼女に笑ってほしいと思った。
その心が、どんなに残酷だったか知らなかった。無知な僕。
「そんなこといわないで。」
僕の声に、彼女の渇いた瞳がごろごろと揺れた。
「どうして、そんなに投げやりなの。」
拙い先入観、才能があるのにやる気のない彼女に僕は言った。
「君ならもっと上手くやれるじゃないか!」
押し付けた価値観、君に抱いた偶像という名の塗り固められた言葉たち。 君はそれに何とも思わないように聞いている。 それは彼女が何よりも優しいから、優しいだけだから、 でも、そんなことに僕はちっとも気付けなかった。
「だから?」
彼女の言葉を自分の言い様に聞いて、 彼女を詰りたいから、都合のいいようにいつだって聞いていた。
「だから?僕のこと馬鹿にしてるの?」
馬鹿にしていたのは、僕。 本当の愚かものだったのも僕だった。
彼女の優しさに気付くのはいつだって、後。 すべてが終わって通り過ぎた、後。 知らなかったすめば、世界はなんて簡潔なんだろう。 ごめんなさいで済めば、世界はなんて滞りなく進むんだろう。
「知ってた?あの人は努力を努力とも思わないくらい、 すべてを注ぎ込んで愛していたんだよ。」
愛はそそがれるものだと誰かがいった。 見返りなぞ求めず、ただひたすら捧げるだけ。
「神への信仰に似ているね?」
無償の愛だけが、この世でもっとも一番美しい形なのかもしれない。 彼女のすべては捧げられるだけで終わっていたのかもしれない。
だから、彼女は特別だったのかもしれない。
こんな世界だから、人はすぐに欲望に片寄る。 こんな世界だから、人はすぐに大切なものを見失う。 この世に得だけのものなんて、存在しない。 いつだって、そのすぐ側にはそれに見合うだけの損が存在している。
彼女は生きている。 捧げるだけの人生に存在しながら、 その心の中では、そんな人生に疑問を抱きながら、 彼女はそれでもそれが自分の人生だから、生きている。 迷いながら、彷徨いながら。
「何か1つ一生懸命に生きている生き方が、 たまに嫌になるの。
ううん。最初から間違ってしまったのかもしれない。」
その時から、彼女の人生の価値は彼女にとってどうでもよいものに なってしまったのかもしれない。 誰もが羨む人生にあっても、彼女はちっとも喜ばない。 自分で縛ってしまった人生に、失敗したかなと。他人事のように思うだけ、 だけど、それでも彼女はその道を歩いているからどこにも逃げられない。
引かれたレールの上を走る人生はほんとうに幸せ? 人生にレールを引くこと事態が、彼女にとっては苦痛だったのに。
「こんな人生死んでもいいかな。」
「そんなこといわないで。」
それから、何ににも縛られなくなった彼女にとって 縛られた僕らの言葉なんて何の意味もなさないんだろう。
「そんなことってどんなこと?」
うっすらと笑う、その壮絶な表情に僕は泣いた。
あぁ、僕はなんにも分かっていないのかもしれない。 否、僕になんいも分かる事ができないのだろう。
「あなたになんて私は分からない。 それは、私が私を分からないように、 私があなたを分からないのと同じなように。」
心が抉られた。 ただ、涙もでなくなるほど思って、悩んだ彼女の瞳が ごろごろと、それでも酷く揺れる心に反応して揺れるのを見て、 今になって、彼女を深く傷つけたろうだということにやっと気付いた。
そして僕はまた、彼女の言葉で一番傷付いているのが彼女自身だなんて ちっとも気付けないのだ。
いつだって気付くのは、後。 すべてが終わって通り過ぎた、後。
悔いるだけが、僕の人生だった。
ナナナ
|