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嗜癖 O君の場合 - 2002年04月23日(火) О君は今年42才になる、独身男性である。 彼は超進学高校(某お笑いタレントの名前にゆかりがある、といえばバレバレか)から東大法学部に進んだという、バリバリの秀才。 見てくれも、いかにも理屈をあれこれこねそうな、学者風。 ところが、東大法を出ておきながら、中央官庁や銀行、商社などには行かず、かといって法曹畑にも行かず、ヤクザっぽいことで定評のある、僕の勤務先になぜか入社してきたという、相当な「変わり者」なのである。 入社約20年にして、いまだ独身なのには、もちろんワケがある。 彼は、シロートの女性を口説くことが出来ないのである。 いや、シロートだけならまだいい。 クロート(という言い方が適当かどうか異論はあるだろうが)、つまり酒場の女性も口説けないのである。 彼に関しては、ほんとうにエピソードにことかかない。 たとえば、家に何千本ものビデオがあり、それもAVなどではなく、一般映画のビデオだけで家中がうまっているとか。 蔵書数もハンパではなく、こちらも何千冊だとか。 でも、その程度の「ガイキチ」はざらにいるから、さほど驚くには当たらない。 が、彼の日頃の酒の飲みかたを知ると、こりゃあ相当ヤバいなと思われるに違いない。 平日、O君が夜酒場に寄らない日はまずないといってよい。 それもたいていは銀座か六本木。 もちろん、女性のいる、かなりお高めの店ばかりである。 そういう店へ、接待相手を連れて飲みに行くだけでなく、個人的に行くことも多い。 その飲み代は、今は管理職のはしくれなので、ほとんど全部請求書で落せるようになっているが、以前まだ役職がつかなかったころは、経費で落せる限度を上回った場合、自腹を切って飲むことも多かったらしい。 で、現金がないときはツケにしていたのだが、そのツケがたまりにたまって、1千万円を軽く越えていたとか…。 さすがに今は、酒場への借金はないようだが。 で、現在ひと月にどれくらいの金額を酒場に落すかというと、軽く100万円以上! 年にすれば1000万円を軽くオーバー! どう考えても常軌を逸している。 彼が現在所属している部署は、社の中でも、かなり交際接待費の予算が多いところなのだが、それでもО君のようなキチガイじみた使い方は、彼の上司ですら、しない。 上司も何度か注意し、一応「気をつけます」と本人も言ったという。 が、しばらくたつとまたぞろ酒場通いを始めてしまい、結局効果がまったくないという。 どうやら、О君の酒場通いはアルコール、ギャンブルなどへの依存症と同じく、「嗜癖(アディクション)」の一種で、気がつけば酒場をハシゴしていた、みたいに、本人の自制心ではどうにも抑えきれないもののようだ。 かといって、会社として、このままこの「狂人」を野放しにしておくわけにはいかない。 すでに管理部門では彼は「要注意人物」の筆頭にあげられており、そのうち、交際費などまったく使えないセクションに飛ばされるのではないかと、もっぱらのウワサである。 しかし、もし彼が経費で飲むことが出来ないようにしたところで、今度は毎日自腹で飲むようになるだけだという気がする。 全然、、根本的な解決策にはならないってことだ。 ところで、それほど、女性のつく酒場に行かないことには一日が終わらないという性格でありながら、おかしなことに彼は、酒場の女性を口説いたことがまるでないらしい。 一説によると、お店がひけたあとのホステスを、自分の住むマンションに連れこんだことはあったようだが、その時も、ふたりでビデオを観ながら、朝まで映画談義をしていただけ(!)らしい。 バカみたい、もったいないというより、やはり、ヘンである。 一種の心の病なのだろうな。 彼の「酒場通い」、は多くの遊び人連中とは違って、決して「楽しそう」な印象がない。 自分が本来来るべきでない「世界」に入ってしまった居心地の悪さを、酒場という「擬似コミュニティ」での時間でまぎらわしている、そういう印象が強いのである。 ともあれ、そんな彼をまっとうな生活に引き戻すには、「結婚」しかないのは間違いない。 だが、はてさて、そんな彼のことを引き受けるような奇特な女性がいるものだろうか? ...
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