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No-Mark Stall *




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0番と12番。 | 2004年12月27日(月)
「……疫病神が来たな……」
どんよりとした暗い目がにこにこと笑う青年の姿を捉えて厭そうに細められた。
「疫病神とは酷いじゃないか12番」
「番号呼びはやめろ」
「えー、じゃあ"吊るされた男"? だったらまだミイラ男の方が短くてよくない?」
「どっちもどっちだ。さっさと何処か行け、厄が憑く」
「どっちが疫病神っぽいかと言えば君の方だと思うんだけど。何か見た目痛々しいし貧相だし」
何故だか怪我の耐えない"12番"は、常に何処かに包帯を巻いている。
現在は見たところ顔の左半分が真新しい包帯で包まれている以外は変わったところは無い。
「今度はドコ怪我したのさ。顔?」
「鳩尾を刺された。まあ見ての通り顔もな。まったく外に出るとろくなことがない」
「……通り魔にでも遭ったの?」
彼は困ったように首を傾げて事情を簡潔に話しだした。
「別れ話に包丁を持ち出して心中を迫った女が相手の男に逃げられた鬱憤晴らしに通りを歩いていた俺を刺した」
「…………。それはまた壮絶だねぇ」
『"12番"の行く先では災難が起こる』とは昔から言い伝えられてきたことであるが、実際に目の当たりにしてみると哀れという他ない。
今代の"吊るされた男"もその伝説にもれず、買い物に出れば通り魔に襲われ森林浴と称して山の麓を散歩すれば熊と間違われて誤射されるのは当たり前、ときには本物の熊に襲われることすらある。
しかし家の中にいれば安全かと言うとそうでもなく、強盗が押し入ってきたり逃亡中の犯罪者が転がり込んでくるのは日常、果てには馬車が突っ込んできたこともあった。
「……いい加減死にたい」
「あーあー、ほら、絶望しない! 明るい未来がすぐそこに!」
"愚者"が殊更明るい声で彼を励ますと、居間の方でがしゃんと窓の割れる音がした。
「……」
「……」
「……ちょっと行ってくる。どうせ強盗だろう」
「いってらっしゃい」
慣れた調子で肩を落として家の中に戻っていく"吊るされた男"を"愚者"は同情に満ちた目で見送った。
「強盗に『どうせ』ってつけるあたりが凄いよねぇ……」
怪我だらけ災難だらけの人生で、何度も瀕死の憂き目を見てきた"12番"であるが、それが原因で死ぬことだけはないらしい。
歴代の"吊るされた男"たちの死因は大抵老衰である。
自殺しようとしたものも中には多かったが、大抵は首吊りのロープが切れたり、手首を切っても早々に発見されたり、荒波に飛び込んでも死ぬことなく海岸に打ち上げられたらしい。高いところから落ちても丁度下に衝撃を和らげるものが置かれていたりして助かったと言う例も聞く。

「……世界の"厄"を引き受ける人身御供、か」

カードに選ばれた二十二人の主たちはそれぞれが世界に対して役目を負っているのだと言われている。
中でも過酷な人生を強いられるカードは。

「大変だねぇ、君も僕も」

がしゃこんがっしゃんと派手な物音のあと、服装の乱れもなく、"吊るされた男"が人相の悪い男を引きずって戻ってきた。
「――待たせた。悪いがこれから憲兵に引き渡してくる」
「ていうかすぐ隣じゃん、憲兵の詰め所」
"0番"の言葉に、彼は疲れたような微笑を浮かべた。
「この前越してきたばかりのな。――俺の家の隣だと犯罪者がよく捕まるんだと」
「……それはまた何とも」
言葉に詰まる"愚者"を置いて、"吊るされた男"は隣の詰め所に向かって強盗を放り投げた。

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犯罪者ほいほいな"吊るされた男"。
"12番"の人間は大抵体がとても頑丈で怪我はしょっちゅうですが病気は殆どありません(良いのか悪いのか……)。
written by MitukiHome
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