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1番と2番。 | 2004年12月30日(木) |
「永遠ってあると思う?」 「……何を突然」 手元の試験管の中の薬品がけぷりと可愛らしい音を立てて白い煙を吐き出した。不発。 彼女は少しばかり拗ねたような表情で、彼の手の中のそれを取り上げてフラスコの中に流し込む。 それだけで、薬品の毒々しい赤紫の色が消えて透明に近い空色に変化する。 「いや、新しく入ってきた本を読んでたら主人公が何かそんなことを延々ぐだぐだ言ってたから」 「……ああ、流行の恋愛小説? "女教皇"も面倒くさい仕事だねェ」 「そーよー、あんたと違って面倒くさいわよー。趣味じゃない本もとりあえず内容確認しないといけないし」 彼女に与えられた仕事は高齢の"教皇"の補佐と教会図書館の管理。 教会図書館は国で一番の蔵書量を誇り、ときには国の重要機密までも納められる重要な施設だ。 「そんなものまで読まなくても問題はないと思うけどねェ、君はホントに真面目だこと」 「そしてあんたはホントにいい加減だこと」 硝子棒でぐるぐると中身をかき混ぜられているフラスコを彼女の手から取り上げて、"魔術師"はまた自分の試験管に移し変える。 空色はあっという間に元の赤紫色に変化した。 「で、永遠はあると思う?」 全てに答えを与える男はにっと笑った。 「あるし、ないね」 「そういうもの?」 「大体ね、そういう問題には正しい答えはナイってのが定石なんだけど。各々が考えてそれぞれの答えに行き着くべきで、コレといった答えを他人から教えてもらえるようなものじゃあないんだよ」 「ふぅん」 納得したのだかしていないのだか分からない曖昧な答えを"女教皇"が返したとき。 「――あ、しまった」 「……何したの」 "魔術師"は無言で窓を開けると、試験管を外へ向かって思い切り投げた。 次の瞬間には爆発音があたりに響き渡り、周囲の森に棲まう鳥たちが静寂を乱されたことにギャァギャァと抗議の声を上げて飛び交う。 「……本当あんたってお約束よね」 「お褒めに預かり光栄至極」 「褒めてないから」 ****** 実験に爆発はお約束です。そして相変わらず無意味問答。 |