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No-Mark Stall *




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銀髪の麗人(またか)。 | 2005年02月02日(水)
きらきらと輝く豊かな銀の髪、垂れ気味だが穏やかな光を湛える蒼い瞳と常に微笑を浮かべている唇。
その整った容貌と印象通りおっとりとした優しい物腰に、詩人たちがその音楽家につけた呼び名は『音楽の天使』。

――ミハエル=ベーエ、若干二十五歳にして宮廷楽団入りを果たした時代の寵児である。

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女の子というのは集まると自然姦しくなるもので、それは貴族であろうと単なる庶民であろうと同じこと。
頼んだ洗濯物を引き取りに行く途中で、ヨルハはきゃあきゃあと甲高い声で騒ぎ合う上流貴族の子女の集団と行き会ってしまった。
近頃の流行であるふんわりと広がる裾のドレスを纏った少女たちは、横にふたりも並べば道をほぼ占領してしまう。
ヨルハはこちらの身分の方が低いせいもあって道を空けたが、彼女たちはお喋りに夢中でひとが来ていたことにも気付かなかったらしい。
しかし、真ん中で居心地が悪そうにしている、人の好さそうな銀髪の佳人が彼女に気付いて申し訳なさそうに頭をちょこりと下げた。
「……?」
反射的に頭を下げたが、どうも違和感が拭えない。
集団をやり過ごした後、彼女はしきりに首を捻りつつその違和感の正体を探っていた。
優しげな面立ちに、胸元に品の良い紫のスカーフ。

「――あぁ、そっか。あのひと男のひとなんだわ」

醸している雰囲気と相貌があまりに女性的だったせいで気付かなかったが、そういえば周囲の女性たちより一回りほど背が高かった気がする。
「あんなに女の子に囲まれちゃあそりゃ居心地悪いわよね……」
同性であるヨルハでさえ、あんな集団には気後れする。
彼に同情と好奇心を寄せながら、彼女は先を急いだ。

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洗濯物を引き取り、しばらく元の同僚たちと歓談をしてから宮に戻るとそこには先ほどの銀色の天使がいた。
単体で見るとその華やかさが際立つ青年は、にこにこと笑いながら門の前に佇んでいる。
「……えーと、何の御用でしょうか」
「この宮はとても寂しいところですね」
「はあ、そうですか」
「此処で働いていらっしゃるのですか」
「ええ、まあ」
ヨルハの主人も銀髪の美形であるが、漂わせている空気が怜悧すぎて近寄りがたい。しかし、このほわほわとした空気もまた微妙に調子を狂わせる感じがして、彼女はどうしたものかを思案を巡らせた。

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出そうと思って出せていない音楽家。どう絡ませたものか。
written by MitukiHome
since 2002.03.30