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名前。 | 2005年04月04日(月) |
「……あの、救世主殿」 そうと決まればとっとと出発よー! と意気込む暮羽に、騎士は困惑げに声をかけた。 「何よ優男」 「その格好ではこれから色々差し障りがあると思われるのですが……」 いい加減その呼び方やめてくれないかなぁというボヤキを呑み込んで、彼はもう一度"救世主"の格好を眺める。 異界から呼ばれた少女は、紺と白を基調とした奇妙なつくりの服を身に纏っている。 足元は頼りなさそうな革靴だ。 ――それは暮羽の世界ではそれぞれセーラー服やローファーなどと呼ばれる学生服の基本なのだが、そんなことを彼は知るはずもない。 「そう? まァ靴は長時間歩いたりするのに向いてないから替えた方がいいかもしれないけど、服の方は別にいいでしょ?」 くるり、と服を見せつけるようにその場に一回転する。 「えぇとですね、こちらの世界では女性が膝より上の脚を露出するのは好ましくないこととされていまして」 「郷に入っては郷に従えって言いたいのね?」 「そのことわざの意味は分かりませんがこちらの衣服に着替えて頂ければ無用の摩擦は避けられるかと」 それもそうね、と彼女はあっさり納得した。 「……」 「何よ」 「いえ、あまりに簡単に問題が解決されたので。この後何か落とし穴が待ち構えているのではないかと」 「アンタ正直だけどあんま出世しそうにないわね」 痛いところを突かれて、騎士はしばし沈黙する。 「それよりも服見せてくれる? 着るものは自分で選びたいし。あ、流行に通じてるひとひとり付けてくれるとなお嬉しいんだけど」 「はあ……用意させますのでしばらく待ってて下さい」 習慣も何もかも違う世界に無承諾で連れてこられたというのに、この順応の速さは何なのだろう。むしろこちらが付いて行けない。 未だに名乗らせてすら貰えない騎士は、それでも彼女の要求を満たすべくひとを呼んで支度をさせる。 「……アンタ偉いの?」 暇だったのだろう、彼が指示をやる様子を眺めていた暮羽が不思議そうに首を傾げて問いかけた。 「は? 何故です?」 「だって人間顎で使ってるじゃない。そういうヒトって偉いものでしょ?」 ぱちぱちと瞬きを繰り返して、彼は暮羽と同じような仕草をした。 「いや別に……貴族であればこのくらい普通ですけど。救世主殿の世界では服以外にもこちらと違うものがあるんですか?」 「とりあえず食物連鎖の一番上にいる生き物の形状は一緒だけど。よかったわね二本足で立ってる生き物が呼べて。でもこういう階級制度は表向きナイわよ。文化もだいぶ違うみたいだし……あァでも大昔はこんな感じだったらしいわね」 この世界は、外国のお伽話で聞く世界とよく似ている。 「それはまた面白い話ですね。では我々の世界も数百年も経てば救世主殿の世界と似たようなものになるのでしょうか」 「さァね。そうだ、言い忘れてたわ。私には伏見暮羽って名前があるんだからいい加減救世主殿って呼ぶのやめてもらえる? 私そんな柄でもないし」 「分かりました。フシミクレハ殿とお呼びすればいいですか?」 「フシミが名字でクレハが名前よ。そんでもって微妙にイントネーション違う。伏見暮羽。あれ、そういえば名字って概念ある?」 「ありますよ。私の方はセヴラン=ヴァレリー=アニェス=アンリ=マリーズ、……まだ続くんですが聞きたいですか?」 暮羽のうんざりした顔に気付いたのか、彼は名乗りを途中でやめる。 「言いたいなら別に言ってもいいけど、私覚えられないわよ」 「覚えなくて結構です。私もあまり言いたくないので。……息継ぎなくて数十秒かかるんですよ。しかも署名なんかの場合は記入欄が足りなくなることも多くて……」 貴族の名前は長いものが多いので幅も多く取られてるんですけどね、と彼は深い深い溜息を付いた。 「ナンデそんなに長いの」 「まずは私自身の名前がセヴランで、その後父母、祖父母、曽祖父母の名前が連なって、まァあと色々付きまして、最後に家名のベルティエです。大体面倒くさいのでセヴラン=ベルティエで通しているんですが」 「私にもそれで良いわよ。貴族も大変ねー」 「えェもう。普通は自分の名前と家名の間には父母の名前しか入らないのですが。嫌になります」 テストなんかの場合にはきっと不利に立たされるだろう。暮羽は心底彼に同情した。 ****** 何も考えずに書いてるんですが何でちゃんと話が進むんだろう。 ……そういえば昔からプロット立てずに書く方がすんなり進んだような記憶が。 それにしても空気清浄機の風が吹いてきてパソコンの前にいると寒いです。別に近くにあるわけでもないのに何故だ。 * ちなみにこの前の場面が気になる場合は去年の12/11〜12をご覧下さいませ。 プロローグ書けばちゃんと連載になるかしら。 |