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No-Mark Stall *




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更に続く。 | 2005年04月10日(日)
昨今の流行は、確か裾が大きく広がったスカートだったように思う。
女性の衣装の流行などさっぱり気にしたことがない優男改めセヴランは、中々部屋から出てこない救世主を待つことにもそろそろ飽きてきた。
「自分で言うのも何ですが、私結構気が長い方だと思うんですよね」
懐中時計は一周どころか二周目も終わりに近い。
部屋の中からは数人の侍女と共にきゃあきゃあ騒ぎながら着替えをしているのであろう彼女の声も聞こえてくる。
「いい加減決めてくんないかなぁ。服なんて周囲から浮いてなければいいと思うんだけど」
「セヴランお前鈍すぎ」
扉の前でひたすら主人を待つ忠犬のような有様の友人を見つけて、アルバンは呆れたように口をひん曲げた。
「だってそうだろ?」
「その分だと女口説けたことないな、お前」
「……」
口説けたどころか口説いたこともないとはさすがに口が裂けても言えない。
沈黙を肯定ととった騎士はにまりと口の端を歪めた。
「口説き方教えてやろうか」
「遠慮する。アルバンの言は参考にならない」
すぱんと断った友人の頭を叩きながら彼はげらげら笑う。
「ひっでぇヤツーそんなに俺のこと信用できない?」
「……」
無言で頭に乗せられた掌をはたき落として、セヴランは目を細めた。
本気で怒っている兆候を感じ取って、彼は笑いを引っ込めた。
「相変わらず身長のこと気にしてんのな。一般的に見ても低いとは言えねェのに何がヤなんだ?」
「お前より低いのが気に食わない」
彼の背はアルバンより頭ひとつ分ほど低い。
それでもセヴランの身長はこの国の男性の平均身長よりは幾分か高いのだが、負けず嫌いとは恐ろしい。
むすっと不機嫌そうな顔つきで彼を睨みつける弟のような友人の頭を撫でてやる。
「分かったからいー加減機嫌直せ。な?」
「……だから、それをやめろと」
何度言えば分かるー!と吠えて、彼は腰に下げた剣を抜き放つ。
「うお、何すんだお前ー!」
とっさに懐の短剣で打ち返したものの、城内は原則抜剣が禁止されている。
「早くしまえお前! バレたらマズいだろうが」
「は? ――あ」
顔を赤らめてわたわたと剣を鞘に戻す。
妙に幼く見えるその様子がおかしくて、アルバンは再び笑いの発作に襲われた。

「……何この変なヒト」
扉を開けた暮羽は、目の前の廊下で笑い転げている大男の姿を見つけて呆然とした。
「あ、救世主殿――じゃなくて、暮羽殿」
ぎろりと睨みつけられて、セヴランはすぐに訂正した。
よろしい、と頷いた彼女は、床に転がる男を指して首を捻った。
「で、この変なのナニ」
「……アルバンという騎士で。不本意ながら私にとってはとりあえず友人という分類に入る男です」
起き上がった男は、人好きのしそうな懐っこい笑顔で掌を差し出す。
「よろしくな、嬢さん」
「何かあんま貴族って感じしない男ね。まぁいいやよろしく。暮羽って呼んで頂戴」
握手のつもりで手を差し出すと、何故だか指先に口付けられた。

「ちょっと待てコラ変態ナニすんのよ――――――!」
とっさに手を振り払い、回し蹴りを放つ。
それをひょいと避けながら、彼はまた笑った。
「面白いなァ"救世主殿"とやらは」
「うっさいこの笑い上戸! 一度あの世に行って来ーい!」
「……彼女はこの世界に詳しくないんだからあんまりからかうなよ、アルバン」
付いていくのに疲れた彼は、溜息を尽きながらふたりの攻防戦を見守った。

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この前の続き。
紫なのは気にしてはいけません。何となくです(正確にはてきとーに数字を打っただけ)。
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