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プレゼントの中身。 | 2005年09月20日(火) |
さて寝るか、と意気揚々と階段を上がったところ、丁度ベルトランさんがこちらに向かってやってくるところだった。何が入っているのか、大きな箱を手にしている。 「ああ、ニネット。良かった、こちらへいらっしゃい」 「? 何ですか?」 とんとん、と皺の刻まれた手が箱を叩く。 「ジェルメルーヌ卿からあなたにプレゼントだそうですよ」 そうして示されたカードにはお誕生日おめでとう、という言葉に始まる祝いの文句がずらずらと並んでいた。流れるような、という比喩のふさわしい綺麗な文字だ。 手紙と見紛うような長い文章だったのであとでじっくり読もうとカードから箱に目を移した。 やたら大きな白い箱だ。ふりふりの青いリボンが可愛らしく巻かれている。 「……開けてみても大丈夫ですかね?」 「そんな危ないものが入っているとは思いませんが」 しかし何となくあまり良くない予感がするのは気のせいだろうか。 「うーん、じゃあ部屋で開けてみます。おやすみなさい」 「おやすみなさい」 * ニネットと分かれて階下に降りたベルトランは、眉を吊り上げた主人のただならぬ様子に首を傾げた。 「ベルトラン。処分予定だったあの箱は何処へやった?」 「ああ、ジェルメルーヌ卿からニネットへの贈り物ですか? それなら彼女に渡しましたが」 その答えを聞いて、ロジェは露骨に顔をしかめる。 「……余計な真似をするな」 そんな主人に、ベルトランは経験と共に次第に厚みを増す己の面の皮に感謝しながら微笑んだ。 「彼女に、と送られてきたものなのですから渡すべきかと思いまして」 「ジェルメルーヌから送られてくるものにろくなものがないのは知っているだろう、貴様」 「……割烹着、とかですか」 「あれは良い。奴にしては珍しくまともで使えるものを送ってきた」 「……」 あれがまともですか。 以前一度だけ目撃してしまった光景を思い出して目眩を覚え、彼はぐっと足に力を入れた。 「今回もそういうものかもしれませんよ」 「と、思えたら楽なのだがな」 翌日。 ロジェがうっすらと冷たい笑みを唇に刷いてベルトランのもとへやってきた。 「しばらく出かけてくる」 薄く研ぎ澄まされた刃を喉元に突きつけられている気分になって、彼は溜息をつきながら訊ね返した。 「何処まででしょう?」 「何、野暮用だ。帰ってきたらおそらくすぐにまた葬式に出なければならなくなるだろうから準備をしておけ」 ベルトランは何か言おうとした口を引き結び、深々と頭を下げる。 「……かしこまりました、どうぞご無事でお戻り下さいませ」 「あれ? ロジェどっか行っちゃったんですか?」 「――ニネットですか、……」 振り返った彼は彼女の姿を見て絶句した。 「……その格好は何事ですか、ニネ坊」 ハロウィンの仮装でもあるまいし、と乾いた声で呟いたベルトランに、ああやっぱり変ですか、と彼女は弱ったように呟いた。 「ジェルメルーヌ卿からの贈り物だったから試しに着てみたんですけどね。さっきロジェも変な顔してたし。今度お会いしたら返そうかなあ」 着替えてきますね、と呑気な調子で彼女は踵を返して自室へ向かった。 その姿を見送りつつ、ベルトランは土気色の顔でぽつりと呟く。 「……別に似合っていないとは思いませんよ」 そう、似合っていないわけではない。 フリルに縁取られた膝丈のワンピースと、同じようにレースだらけの白いエプロンにタイツ。 格好だけならメイドとも見て取れなくはないが、問題はその頭部にあった。 彼女の黒髪の間から覗く黒い猫の耳を見つめて、ベルトランは以前うっかり見てしまった主人のあの姿の記憶共々、この映像を封印しようと固く誓った。 ****** パッシフローラ後日譚もどき。 屋台のお話はパラレルですから。きっと。多分。おそらく。 何だかロジェの保護者化がますます進んでいる気がしてなりません。そしてトラウマを増やしていく老執事。 髭紳士が何かヤバい方向へ進んでいる気がしますがきっと猫耳は息子あたりの入れ知恵です。しっぽがないのは最後の良心に違いない(嫌だ)。 |