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No-Mark Stall *




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断片。 | 2006年03月14日(火)
荒野の風は遠い。
彼女はどうしているだろうか。

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貴族たちは家名の他に個人を示す名前をふたつ持つ。
普通名乗るときに使われるのは洗礼名と呼ばれる名前で、戸籍に載せられるのもこちらだ。もうひとつの名前は真名と呼ばれ、伴侶や親、親友といった気の置けない近しい仲の人間だけが知りうるものである。
相手が自分のことをどう思っているか知りたいときは真名を問え、と冗談で言われるほどに、貴族たちは呼び方にこだわる。
よく知らぬ相手は家名、友人であれば洗礼名、真名を知っている者が他人のいる場で相手を呼ぶときは洗礼名を縮めた愛称を使うのが常である。

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「リーオ!」
しばらく耳にしていない自分の愛称を大声で呼ばれ、彼は苦笑してそちらを振り返った。駆け寄ってきた相手にその勢いのまま背中を叩かれ、思わず眉をひそめる。
「……ルーベル」
「まさか此処でもう一度お前の顔を見るとはな。正直、生きて会えるとは思っていなかった」
ルーベルと呼ばれた男は、快活で心底嬉しげな声を上げて彼の肩を抱く。
「心配をかけたな」
「そう思うならもう少し神妙にしていろ、先ほどからどういう顔をしているのか分かってるのかお前」
「あいにくさっぱりだ」
「相変わらずのふてぶてしさに嬉しくて涙が出るぞ」
全く嬉しそうには聞こえない台詞を呟いて、彼ははぁとため息を吐いた。
「ふてくされるのもいい加減にしておけ。向こうで何があったか知らないが、お前は此処に戻ってきたんだから」

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ぬーん。
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