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だんなさまとおくさま。 | 2006年05月05日(金) |
「ねえ、そこのきんきらきん」 「……」 呼びかけられた男は、不機嫌そうな顔つきで渋々と立ち止まった。 彼女が正面から廊下を塞ぐ格好で立っていなかったらきっと優雅に無視したことだろう。 「何か」 「ご一緒にお茶でもいかが? お互いの理解を深めるために」 「公務があるので遠慮させて頂きますよ。それに私はあなたの理解など求めてはいませんし、あなたも私の理解など必要ないでしょう?」 しれっとそんなことを言い放ち、用は終わったと言わんばかりに歩き始める金髪の男の腕をがしっと掴み、彼女は恨めしそうにその瞳を睨み上げる。 「仮にも夫婦なんでしょ、私たち」 「ええ、法律上は。私が死んだら遺産はあなたのところへいきますし、逆も然り。だからと言って暗殺などは企まないで下さいね。面倒が増える」 「誰があんたなんか暗殺するのよ。あんたこそ私を殺したりとかしないでよね。そんなことしたらあの世から全力で呪ってあげるから」 「それはそれは。私のドコを見ればそんなことを考え付くような男に見えますかね?」 「全部」 すぱんと言い放つ彼女を面白そうに彼は見下ろした。 「それはまた新鮮なご意見をどうも。仕事を片付けたいのでそろそろ宜しいですか?」 彼は、大して力を込めた風でもないのに彼女の腕をするりと解く。 早足で立ち去っていく後姿を見つめ、彼女は不思議そうに問いかけた。 「何で私なんかと結婚したの」 無視されることを承知で呟いたが、意外にも彼は立ち止まって彼女の方を振り返った。 「面倒がなさそうでしたから。これほど手を煩わされるとは予想外でしたが」 「……それが結婚ってモノでしょ」 「なるほど」 喉で笑う声は楽しげで、それに不気味なものを感じて彼女はふいと顔を背けた。 ****** 残忍領主(恋愛に興味なし)×政略結婚でつれてこられた花嫁さん、というのはいかがだろうと唐突に思いついたネタ。 どのあたりが残忍なんじゃ、という感じもしますがこの場面。 思った以上に気に入ったので、短編あたりで何とかまとめたいところです。 |