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No-Mark Stall *




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隔てられるふたりに7つのお題 / 3.絆 | 2006年05月13日(土)
繋がりが目に見えれば安心できるのだろうか。

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天幕を雨が叩く。
明け方、ぽつぽつと控えめだった音は風が強くなるとともに段々と酷くなって今ではもう嵐のようで、うるさいほどに耳に響く。
日程にも余裕があるということで今日は此処を動かないことになったらしいと、顔見知りの兵士が伝えてくれた。
貸し与えられた小さな天幕の中で、彼女は身動きもせずに膝を抱えてただじっとしている。

もうすぐ荒野を抜けると伝えられたのは数日前。
そこから先は未知の世界だ。
聞いた話によると、村や彼女の見知った小さな町とは比べものにならないほどの多くの人間がいて、家々がくっつかんばかりにひしめきあい、道路はすべて石畳で舗装されているらしい。
想像のつかない新しい街を見るのが楽しみである一方、目的地である都に近づいているという事実は、ほんの少しだけ彼女を不安にさせる。
そこに彼がいなかったらどうしよう。彼を見つけても、拒絶されたらどうしよう。
ぐるぐると渦巻く不安を押し込めるように、自分の体を抱きしめる。

すぐ手の届くところには、彼の忘れていった剣があった。
肌身離さず持ち歩いているそれをじっと見つめる。
褪せた布で厳重に包んであるせいでその姿は今見えないが、鞘に収まった優美なそのかたちはすぐに思い出せる。
これといって、何の変哲もない剣だ。華麗な装飾はされているけれど、飾りのような華奢なものではない。使い込まれた跡もある、れっきとした武器だ。
彼がそれを使ってどのくらいのひとを殺したのか、正直なところ殆ど興味はない。
ただ重要なのは、それが彼の持ち物であるという、その事実だった。

唐突に行方をくらませた彼が、どういった理由で何処に去っていったのか、彼女は何も知らない。
何も知らぬまま、ただ、自分から探さなければ二度と会えないと心の何処かで確信したから彼女は村を飛び出した。
迷惑だと言われてもいいからもう一度だけ会えればいいと、強く思ったそのときの気持ちは、不安な時間が長く続くほどに少しずつしぼんでいく。
今にもふつりと途切れてしまいそうなそれを支えているのはただ一本の剣だった。

断ち切るための道具であるそれが、ふたりを繋いでいる唯一のものだとは皮肉なものだと思いながら、彼女は包みをそっと撫でた。


会いたいと、向こうも思ってくれているのだろうか。
知る術はなくただ今も、気持ちは絶えていないのだと信じて、彼女は歩く。


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1番目のお題の彼女の方の話でした。人称代名詞を多用しすぎな気がする。
私の書く話はどうみても甲斐性なし男が多すぎです。

隔てられるふたりに7つのお題 / 3.絆
[ 配布元 : TV ]
written by MitukiHome
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