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襲撃。 | 2006年06月07日(水) |
「……これはまた、豪勢な出迎えだな」 彼を取り囲む黒衣の影たちは沈黙を守り、じりじりと間合いを詰める。 宵闇に沈む彼ら自身とは対照的に、その得物は外灯の光を反射して星のように銀色に煌く。雪のような色をした長い髪と赤い上着の彼は、その中にあって一際目立つ一等星のようにも見え、さながら夜空を地上に引き写したかのようだ。 「何者か、と問うても答えは返るまいか」 彼には武術の心得は殆どない。せいぜいが護身術程度の簡単な体術と剣術程度、専らの武器はペンと舌である。 一応、持ち歩いている杖は柄を捻って引き抜けば剣になるといういわゆる仕込杖であるが、彼はそのままにしておいた。筋は悪くないと剣の師匠には言われたが、何より剣を振り回していられるだけの体力がないのが問題である。 自身で対抗する術もなく、おそらくひとを呼んだところで救援が到着する前にばっさり斬り伏せられて終いである。 けれど彼は、面倒くさいことになったとしかめ面をするだけでさしたる動揺を見せなかった。 それを目の前の暗殺者どもは何か彼に奥の手があるのではないかと用心しているらしく、中々斬りかかってこない。 厚い面の皮と二枚舌、それに図太い神経は政治家に必須の技能だと彼は常々思っている。 「持ち合わせがあって助かったな」 何の意味か分からない襲撃者たちは更に困惑したようで、無意味に目配せをし合っている。 確かに彼には奥の手がある。 時間をある程度稼ぐことができれば、彼にとってどのような剣豪だろうと狂戦士だろうと敵ではない。 「まったくつまらん」 ぱちんと指を鳴らすと、男たちはその場にくず折れた。 この身は深く呪われている。 息絶えた刺客の山を見下ろして、彼は憂鬱そうな溜息をついた。 ****** 現代要素のないFTを書くときは、人名地名など以外ではなるべくカタカナを使わない、という自分ルールがあります。数年前の文章だと適用されてなかったり、他にも幾つかありますがまぁそれは置いておいて。 今回も、パフォーマンスという語を使いたかったんですが、それって他の語でどう書けば、と止まってしまって結局ナシにしたあたり、まだまだ語彙が貧弱なようです。 |