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No-Mark Stall *




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変態ストーカー#10 / 02 今日も貴方の後ろにいます | 2006年06月12日(月)
朝礼やら式典での、校長先生の話が長いのはどの学校も変わらないのだろうか。
欠伸を噛み殺し、ひなりは眠たい目をぱちぱちと瞬かせた。
立たされて早十分近い時間が経過している。そろそろ切り上げないと授業に支障が出そうなものだが、バーコード校長の舌はますます滑らかになり、朝礼の進行役である教頭もうんざりと言いたげな様子で壇上に視線を送っていた。校長が握った手を振りながら演説をかますときは、話し終えるまで他人の言葉を絶対に聞かない。
飛んでいかない眠気と抗いつつ、話に飽きたひなりは何となく立ち並ぶ生徒たちの頭を眺めた。幾つかふらふらしている。
その中のひとつに例の金髪氏を見つけ、眠りかけていた意識がひょこと顔を上げた。
それほど距離は離れていない。列からしてふたつぐらい隣のクラスだろうか。体育で合同される組ではないし、やはり廊下でたまに見かけることぐらいしかないのも頷ける。
(それにしても器用に寝るなあ)
彼が斜め前に立っているせいか、目を瞑ってうなだれている顔がちらりと見える。
あの様子では睡魔との戦いは既に終わり、降参して膝枕でもしてもらっているような雰囲気だ。
よく倒れないものだとひなりは思う。自分なら確実にばったんと床に倒れ伏すに違いない。
時折思い出したように瞼を上げたりまたつむったりしている様を眺めている内に、校長は話を語り尽くしたらしい。満足げな顔で髪を撫で付けながら階段を降りるその姿が、人垣の向こうに消える。
それを待っていたかのように教頭が二、三の注意事項を早口で述べ、「では解散」と合図を送った。
既に時計は一時限目の開始時間を過ぎている。
急ぐ生徒たちで体育館の入り口はごった返していた。

「いっつも思うんだけど、効率悪いわよねえ」
ばらばらと崩れていく列に紛れて、ヌイがいつの間にかひなりの隣にやってきていた。
「一応学年毎にずらしてはいるみたいだけど」
「それでもさ、この混み具合よ?」
「そうだねえ……」
急ぎ足で我先にと廊下に溢れ出る生徒たちの波に乗り、通路を歩く。
「あ、いつものブロンド発見。あれ地毛なのかしら」
ヌイが首を傾げ、ひなりはさぁ、と興味のなさそうな返事をした。
校則で染髪は禁止されてこそいないが暗黙の了解というものはやはり存在し、あんまり派手な髪をしている生徒は呼び出されて指導を受ける。ヌイの髪色でぎりぎりだろうか。どちらにせよ生まれついての無難な黒髪で満足しているひなりにとっては関心のある話でもない。
「多分地毛じゃない? 染めてたらアレはアウトでしょ」
「そうね」
そんなことをのんびりと話している間にも、彼はするすると人込みを抜けていく。
空いている空間を見つけてそこに上手く滑り込む様子は、水の流れを読む魚のようだと彼女は思う。

階段を上がると生徒もだいぶ減り、窮屈な感じはもうしない。
「あ、見失った」
ひなりの真似でもしていたのか、彼を目で追っていたらしいヌイが不意に声を上げる。
「さっき向こうの廊下にそれていった」
朝礼のときに判明した彼のクラスはそちらの方にある。彼女達は逆の方向に曲がった。

「ねえ、例の彼のことだけどさ」
「ヌイって結構しつこいところあるよね」
「このしつこさがないと接点の少ない大学生は落とせないわよ」
ふふふ、とグロスを塗った唇が楽しげな笑みを刻む。先日彼氏のことで嘆いていた件は何処へやら、楽しそうなその様子にひなりは少しほっとした。彼女の修羅場の数々を傍で見ていた身としては、やはり幸せでいてほしい。
「ってそうよ、あたしの話は良いのよ、アンタの話よ。本当にこのまま潤いのない高校生活を送る気?」
「十分潤ってるのでご心配なく」
恋人がいると何がどう潤うのかさっぱり分からないが、ヌイは口を尖らせて食い下がった。
「思うんだけど、アンタにとって彼とか何なの?」
「だから観察対象だってば。そうだなぁ、ツチノコ? 違うなぁ、あれほど珍しくないし」
しばらくうんうん唸っていたひなりは、突然ぽんと手を叩いた。
「そうだ、よくテレビの占いでやってるラッキーアイテム。アレに近い。見ると楽しいことが起こる感じ」
「白いバッグとかピンクの口紅と同等なワケ? 何なのこの子」
嘆かわしいわ、とヌイは額を押さえて天を仰ぐ。大げさな嘆きようにひなりは頬を膨らませた。

「知り合う気もないの?」
「理由も切欠もないし」
後ろから時々見ることがあるだけで十分なのだ。
それを聞いたヌイは、口の中だけでそっと呟いた。
「……理由や切欠があれば良いのね?」

「何か言った?」
「言ったわ。ヒナって何でこんなに恋に興味がないのかしらって」
「他に楽しいこと一杯あるもの。やろうと意気込むのも変な感じするし」
恋人が欲しいというキモチは分かる。恋がしたいというのも分かる。
けれども、だから積極的に相手を探そうという気はどうしても起こらないのだった。
「恋ってするものじゃなくおちるものなんでしょ?」
「少女漫画読みすぎじゃない? まあ、オチるもので、させるものよ」
ヌイは不敵で好戦的な笑みを浮かべる。
その様子に何だか不吉な予感を覚え、ヒナは引きつった笑顔でそれに応えた。


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割とこの話はキャラが勝手に動きます。
とりあえずまずは相手と会わせないとな、というところで。
ていうかどうなんだこの主人公。

変態ストーカー#10 / 02 今日も貴方の後ろにいます
配布元 : アンゼリカ
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