ゼロの視点
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2002年11月28日(木) 事故続報

 11月24日の日記に書いた事故の続報。大怪我をしたJYは、ギプスをしたまま自宅療養になった。そして、昏睡状態のEは、“最悪の事態=死”を免れたそうだ。

 Eの病院を訪れて以来、自問自答していることがある。

 もし、私がEの立場だったらどうか?、ということ。Eは意識がないわけで、実際に自分が今、どんな状況で他人に晒されているかなど、とうていわからないはずだ。でも、見舞いの人間は、バッチリと意識があるわけで、嫌がおうにも彼女の状況が見て取れる。

 とても、キュートで、子悪魔な魅力にあふれていたE。だが、集中治療室で私が見たEは、開頭を受けた直後。あたまには包帯が巻かれ、手術の直後ということもあり、顔がかなり膨張していた。

 私は、彼女の左側に立っていたのだが、頭にきちんと巻かれたはずの包帯の下を見てしまった。一瞬、ギクッとしたが、確かに彼女の左耳がなかった。それプラス、左耳からおそらく上までザックリとメスが入れられたであろう跡がはっきりと見て取れたのだ・・・・。

 それを確認した瞬間、ひどく彼女に対して悪いことをしているような感覚に襲われた。意識があったら、彼女がおそらく誰にも見せたくはなかっただろうものを、彼女に対する確認もなく、盗み見をしてしまったような、感覚・・・・・。彼女がどう思うか?。少なくとも、私が彼女の立場だったら、こんな姿を人に見られたくないと痛烈に思った。

 死の危険を免れた彼女。つまり、彼女は死ねない。今後、彼女の意識が戻っても、今後の人生を重度の障害者として送らねばならない可能性だけが残った。障害者で、生きがいをもって日々の生活を楽しんでいる人がいるのは知っている。しかし、そこに至るまでの過程は、人にもよるが、かなりのものだったのではないか?・・・、等と色々なことに思いをはせる。

 障害を持っている方、あるいはそれを克服した方には、本当に申し訳ない。が、当たり前のように健康を享受している、あるいはしていた人間が、突然、事故にあってしまい、その後、自分の状態をどのように受け入れていくのか?!?!?!、というのは、本当に想像を絶することなのではないかと、考えないではいられない。おまけに、Eの場合は、ひき逃げなのだから・・・・・・。

 昨日、たまりに溜まった写真の整理をしていた時、事故の2週間前に撮影されたEの元気な姿の写真を発見してしまった。彼女の意識が戻り、なおかつ以前のように元気な姿で、再び私達の前に現れてくれることを祈らないではいられない・・・・・・・・。

 しかし、だ・・・・。

 元気になって、戻ってきてくれと思う感覚が、わがままなんじゃないか?とも思えることがある。元気な姿をみたい、というのは、現在健康な身体をもっていて、なおかつ死だの、障害だのの現実をみたくない者が、単純に思うものなのではないか、と。

 この世に戻るか否か、ということは彼女が決めることでなんだろうとつくづく思った。私達は、元気な姿で戻ってきてくれと願うことができる、が、それはそれなんじゃないだろうか・・・・?!?!?!。

 Eの病院を後にしたあと、私は夫にこう、伝えた。

「何かのことが私におこったら、延命措置はしないで欲しい」と。

夫は黙って、うなずきこう言った。

「ボクの場合も、同じことだ・・・」。

 これらのことは、まことに個人的なことだと思う。でも、私は、この意見を変えることが恐らくと思えてならない。

 哲学者ジル・ドゥルーズ(Gilles DELEUZE)が、パリ17区のアパルトマンから投身自殺をしたのは1995年の11月4日のこと。長らく患っていた病を苦にしての自殺だった。このニュースを知ったとき、私は「これで楽になれてよかっかね」ということだったのを今でも、痛烈に覚えている。また、私が同じ状況だったら、きっと同じことをするだろう、と強く思ったものだった。

 自分の父の死、祖母の死、などを通しても、葬式で一度も泣くことがなかった私。

 父が、ドゥルーズのように人工呼吸器の装着なしでは生きていけない状況になって、ひどく苦しんでいたのを、子供ながらに覚えている。父は、自殺こそしなかったものの、いざとなったら、そういった手段を取る可能性があることを、生前にすでに自分の妻(つまりは私の母)に伝えている。そして妻は、

「あなたがこの世からいなくなるのは、本当に辛いことだが、もしそれをあなたが望むなら、わかりました」と、答えている。

 ま、こんな感じだったので、余計ドゥルーズの自殺の件については、肯定的に受け取れる私がいるのだろうけれど。もし、何かのことがあって、自分の夫が同じような申し入れを私にしてきたら、私も、母のように答えることは確実なのだ。死なないで、など、そんなことを言うことはまるで考えられない私がいる。

 Eがどう思うかどうか、ということではない。彼女の状況を目にして私が思ったことを書いているだけだ、ということを、再度付け加えておく。

 そう・・・・、ゼロの視点、として・・・・。


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