ゼロの視点
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つい先ほどのこと・・・・・・。
用事を終えて、夫と家路につくためメトロのった。私たちが座ったところから少し離れたところに、電波オヤジがいた。大声はりあげて、まるで誰かと話しているかのように、モノローグを延々と続けている類の人、だ。ま、日本でもよくいるのだが・・・。
ふと、夫に「もし、自分がああなっちゃったらどうする?」と聞きたくなった瞬間には、すでに口からその質問が飛び出ていた後だった。夫は、目で“また喧嘩売ってきたなっ、おぬしっ!!”という感じで睨んできたが、そのついでに夫は「ゼロのほうが、僕より早くああなるんじゃないか?。」と言い返してくる。
おぬしも、切り替えしてきたな。
と、こんな会話を繰り返しているうちに、この電波オヤジが席を立ち上がりフラフラ歩き出した。私は、このオヤジをダイレクトに見ず、窓ガラス越しにその行方を追っていく。するとどうだろう・・・・、オヤジが私たちのほうに寄ってくるではないかっ。
えっ?!?!?!、と思ったと同時に、電波オヤジが夫に握手を求めた。一瞬の躊躇のゆえ、夫が握手に応じる。そして、私はその動向を、あいかわらず窓ガラス越しに追う・・・、そう、あくまで他人のふりだ。しかし、おかしくて、おかしくて、すでに顔が歪み出している。
電波オヤジは色々と夫に話し掛け出した。だが、酔っ払っているのか、歯が抜けているせいなのかわからないが、発音がハッキリせずよくわからない。すかさず、夫が「何しゃべっているのか、よくわかんないから、もっとちゃんと話してくれると嬉しいなあ。」等といって、話を続けさせる。
そして、電波オヤジは自己紹介を始め出した。名前はロネ、49歳だという。オヤジは49歳だと言ったのに、夫のほうが今度はボケていて「69歳?!?!?!」などと聞き返すと、電波オヤジは、「勘弁してくれよ・・・」と言う。
「勘弁してくれよ」か・・・・・・。それは私のセリフだ。酒焼けした顔色の電波オヤジに対して、夫は「随分日に焼けて、元気そうだね。どこでバカンス過ごしてきたの?。」などと大声で質問。周りの人が、私のように窓ガラス越しに様子を伺いながら、顔を歪ませ始めてきた。
こんな調子の会話が10分以上続いただろうか・・・・。電波オヤジは、きっとしばらくぶりに、自分以外の人間と会話したのか、嬉しそうにしていた。そして感極まったのか、夫に抱きつこうとしたので、さすがの夫も「それはやめて」とオヤジの腕を軽く払いのけた。
それと同時に我が家の最寄駅に到着したので、夫はまた電波オヤジと握手して、メトロを降りた。夫は刑事コロンボのようなヨレヨレのレインコートを着ている・・・・。見方によれば、彼も浮浪者に毛が生えた感じだな、とその後姿を見えしみじみ思う私。
きっと電波オヤジは、そんな夫に直感的に親近感を覚えたのだろう。また、そんな予感が薄々したからこそ、電波オヤジに夫が話し掛けられる前に、私自身が妙な質問を夫せずにはいられなかったのだと思う。
電波がもうひとつの電波に引き寄せられた、だたそれだけのことなのだろう、きっと・・・。
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