さくら猫&光にゃん氏の『にゃん氏物語』
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2002年12月01日(日) にゃん氏物語 夕顔07

光にゃん氏訳 源氏物語 夕顔07

源氏もこんなふうに真実を隠し続ければ 女の事を誰か知る術がない
仮住まいである事は間違いないと思われ どこかへ移って行く時には
どうにもならない 行方を見失いすぐ諦めがつけばいいが不可能である
世間体を気にして間隔をおき 逢わない夜は堪えられず苦しく思うので
誰にも知らせず二条の院に迎えてしまおう 悪い評判が立っても自分は
そうなる運命なのだ 自分としてもこれほど女に心を惹かれた経験が
ないので やはり前世の約束であったと考えるのが妥当だと思い

『貴方も本気になってください 私は気楽な家で夫婦生活がしたい』
と源氏は言い出すと 「そう言われても 貴方は私を普通に扱って
くれないので不安です」と若々しく夕顔が言う 源氏は微笑んで
『そうだね どっちが狐かな 化かされていればいいんじゃない』
と親しい感じで源氏が言うと 女もその気になっていく どんな欠点が
あっても こんな純な女が愛しい そう思った時に頭中将の常夏の女は
いよいよ この人らしいと疑う しかし隠しているなら訳があると思い
無理に聞く気はなかった 感情を傷つけられて突然いなくなる性格には
みられない 自分が途絶えがちになった時は そんなそぶりもみせる
だろうが 自分ながら今の情熱が少し覚めた方が女の良さがわかると
思い しかし それができないから途絶えがちにもならず女の気持ちを
心配することもないと考えた

八月の十五夜満月 中秋の夜 明るい月光が板屋根で隙間だらけの
家の中に差しこみ 家の様子が源氏には珍しく見えた もう夜明け近い
のであろう 近所の家々から貧しい男達が目を覚まし 声が聞える
その日暮らしの仕事を始める音もすぐ近くで聞え 女は恥ずかしがる
きどった女なら死ぬほどバツが悪い場所でしょう でも夕顔はおっとり
していた 辛さ 悲しさ 恥ずかしさも思ったことは見せないようで
貴族らしく 娘らしく 下品な近所の会話も分からないようであるので
恥ずかしがられるよりも感じがよかった ごろごろと雷以上激しい音の
唐臼も枕元の傍で聞える 源氏もこれはやかましく思うが 源氏も何の
音であるかわからない その他にも多くの騒がしい雑音が聞えた

白い麻布を打つ砧のかすかな音もあちこちから聞えた 空を行く雁の
声もした 秋のあわれみもしみじみ感じられる 庭に近い室だったから
横の引き戸を開けて二人で外をながめた 小さい庭にしゃれた姿の竹が
立ち 草の露はこんな所でも二条の院と同じようにキラキラ光っている
虫も沢山鳴く 壁で鳴くといい人間に一番近くで鳴くコオロギでさえ
源氏は遠くの声しか知らなかったが ここではどんな虫も耳の傍で鳴く
風変わりな趣だと思うのも 夕顔への想いの深さが何事も悪く思わせ
ないのでしょう

白い袷に柔らかい薄紫の衣を重ねた華やかでない姿のほっそりした人
際立って良いところはないが 繊細な感じの美人で物言いに弱々しい
可憐さで いじらしくて可愛い 気取った才気らしいものを少し加えた
ならいいなと源氏は見て もっとよくこの人を知りたくて『さあ行こう
この近くの家で気楽に明日まで話そう こんな風にいつも暗いうちに
別れるのは辛いから』と言うと「なんで急に言い出したの」おっとりと
夕顔は言った 不変の愛を死後も続けようと源氏が誓うのを何の疑念も
持たずに信じ喜ぶ うぶさ 一度結婚経験のある女と思えず可憐だった
源氏はもう誰の目も遠慮しないで右近に随身を呼ばせ車を庭に入れた
夕顔の女房達も女主人を深く愛する男を誰か知らずも相当信頼していた


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