流れる水の中に...雨音

 

 

鳩 - 2002年08月16日(金)



彼はベランダに住みついている。

はじめて彼と出会ったのは この灼熱の陽射しが
惜しみなく照りつける都会の夏のベランダ。
片方の羽を引きずった彼は そこで不安げに
首をすくませてた。

パンくずを投げると 少し警戒を示した後に
くちばしでつつきはじめた。

片羽を引きずっているから 彼は今 飛べないのだろうと
思った。
だから しばらく 面倒をみてやろうかと思った。

家にある デザート皿にパンくずと 葡萄の実と
小さな水入れをセットし ベランダに差しだしてやると
彼は 軽快に 皿の縁に飛び乗ると
つんつんと パンくずをつつきはじめた。

夏の終わりにしばらく家を空けるので
その間 彼への餌をどうしようかと 少し悩んだ。

無責任に手を差し延べるのは 完全な無視よりも
生き物にとっては もっと罪なこと。

数時間たって カーテンの隙間からベランダを覗くと
やはり彼は其処にいた。


夜になり 辺りが静かになるころ
私はまた ベランダに出ようと 硝子戸をあけると
もう 彼の姿はなかった。
何度か呼びかけてみたが 気配は既になかった。

ほんの少し ほっとした。


朝 いつものように カーテンを開いて
新しい空気をいれようとしたとき
彼はまた 其処にいた。
何処かに隠れていたのか、それとも再び飛んできたのか
それはわからないけれど 
それでも彼は其処にいた。

しばらく彼とは この付き合いが続きそうだなと
私は少しの重荷と
そしてそれよりも多くの くすぐったさを感じていた。




...




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