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『時計を忘れて森へいこう』 光原百合 (東京創元社) - 2005年07月23日(土) 光原 百合 / 東京創元社(1998/04) Amazonランキング:131,713位 Amazonおすすめ度: ![]() ![]() ![]() ![]() もしアンケートを実施して“心が癒される作品”を1冊挙げなさいと言われたらあなたならどの作品を挙げるであろうか? 私は迷わずこの作品を選びたいと思う。 表紙を飾るのは主人公の女子高生・若杉翠。 装丁からして読者も、日頃忘れがちになりつつある素直な気持ちで向き合って生きて行く(というか読んでいくと言った方が適切かな)事を余儀なくされる。 まるで主人公が森に郊外学習に訪れた如く・・・ かつて『ななつのこ』を加納朋子が上梓したときに主人公の駒子ちゃんを作者の分身の如く捉えた読者も多かったのではないであろうか。 同様のことが本作の若杉翠と作者との間にも言える。 それほど清々しいキャラなのである。 物語は郊外学習で八ヶ岳南麓の清海を訪れた彼女(若杉翠)が時計を森に落とすことによって運命の出会いに遭遇するところから始まる。 その出会いの人物とはシーク協会の自然観察指導員である深森護である。 本作の探偵役でもある淡い護への恋心を育みながら、翠が一人称で語りつつ物語は進行して行く。 そういった意味合いにおいてはジュブナイル的要素がかなり詰まった作品だとも言えそうである。 形式的には全3篇からの中篇からなる連作集であるがミステリー度は薄いと覚悟して読んだ方がいいのかもしれない。 しかしながら光原さんの持ち味が発揮される舞台は十分に整っているのである。 優しく心地よい光原さんの文章が各篇にて登場する心に深い傷を持った人物の謎を見事に解きほぐすのである。 なんといっても2篇目が素晴らしいのひと言に尽きる。 婚約者を自動車事故で失って落ち込んでいた男、その直後から抱いた婚約者への不信感。 謎が解明された時、読者に生きる勇気を強く与えてくれる作品だと断言したいですね。 この作品を読み終えた今、私達読者も林間学習を終え、現実に向き合わなければならない。 誰もが、“そんなに人生って悪くないじゃん”と心が少し軽く解放されたような気分になるのは光原さんの確かな筆力の証なのであろう。 タイトル名の見事さも本作の忘れられないところである。 主人公が森で忘れた時計からいろんなことを想起せざるを得ない。 自然と時計をはずした気分に浸れた読者が大半であろう。 時計をはずす=解放されつつも現実と向き合う→心が軽くなるということなんでしょうね。 本作は単行本発売から約7年、いつまでも読み継がれるべき“癒し文学の名作”である。 一人でも多くの方に手にとってもらうために、一日でも早い文庫化を切望したく思う。 評価9点 オススメ 2005年54冊目 ...
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