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『さよならバースディ』 荻原浩 (集英社) - 2005年08月10日(水)


荻原 浩 / 集英社(2005/07)
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Amazonおすすめ度:
お猿さんだけが知っている



山本周五郎賞受賞第一作。受賞作『明日の記憶』と同じようにシリアス系の作品。
ただし本作はミステリーテイストも含まれている。

タイトルにもなっているボノボ(ピグミーチンパンジー)のバースディは東京霊長類研究センターで生まれた天才子ザル。
人と会話の出来る有能猿である。
主人公で大学助手の真や彼の恋人で大学院生の由紀たちが進める「バースディ・プロジェクト」であるが、ある日由紀が飛び降り自殺してしまう。

本作で描かれてるのは明らかに大人たちのヒューマン・ドラマである。
出世欲の強いのは横山秀夫氏の警察小説に登場する人物達だけではない。
本作に登場する大学教授たちもそうだ。
ある意味彼らの方が俗物的なのかもしれないな。

彼らにとってはバースディは単なる実験動物にすぎない。

対照的に真や由紀にとってはバースディは我が子のように可愛いのである。
バースディに対する接し方・考え方のコントラストが全編を通して支配し、物語をより感動的なものとしている。

多少、細部にわたり説明不足の点もあるかもしれない。
というかもっと他の登場人物の描写の枚数が足りないと言うのが正直なところ。

この物語の主人公真には荻原氏特有のユーモアはいらない。
なぜなら彼には誰にもない優しさを持ち合わせているから。
それだけで読者は満腹になるのである。
あらためて荻原氏は読者の味方であると認識した。
いや小市民であるわたしの味方であると言った方が適切なのであろうか(笑)
世の中がどんなに変わろうとも信じきってまっすぐに生きることの尊さを諭してくれている。
主人公真のように純粋な気持ちで女性を愛したいものである。

話の内容的にはこぢんまりとまとまりすぎているかもしれない。
しかしそのあとは読者がどう受け入れるかによって凄く感じ方が変わってくると言える。

たとえば、ちょっと謎めいた存在の由紀である。
彼女は、プロポーズされた日に自殺するのであるが、やはり安達先生とのことでかなり良心がとがめたのが事態を急がせたのではないかと思ったりするのである。
あとは読んでのお楽しみかな(笑)

真の人生を心から応援したい。
彼には由紀の分も幸せにならなければならない使命があるから・・・

評価8点

2005年57冊目

この作品は私が主催している第4回新刊グランプリ!にエントリーしております。
本作を読まれた方、是非お気軽にご投票いただけたら嬉しく思います。
(投票期間2006年2月28日迄)


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