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『その日のまえに』 重松清 (文藝春秋) - 2005年08月21日(日)


重松 清 / 文藝春秋(2005/08/05)
Amazonランキング:2,618位
Amazonおすすめ度:
日々是好日



和美は幸せだったか・・・・。
僕と出会って、夫婦になって、家族をつくって、幸せな一生だったのか・・・・。
わからない。
胸を張って、「幸せでした」とは、いまは言えない。
それがたまらなく悔しくて、悲しくて、和美にも和美の両親にも申し訳なくて、僕にできるのは、自分の場所を義父に譲ることだけだった。

2001年『ビタミンF』で直木賞を受賞以来、2002年『流星ワゴン』、2004年『卒業』とファンを唸らせる小説を上梓、自他共に認める家族小説の第一人者として不動の地位を保っている重松さんであるが、本作を読んでまだまだ目指すところは高かったことに驚愕された方は私だけじゃないはずである。
本作にて家族小説というより夫婦小説として“究極の愛情”を描写、重松ファンってなんて幸せなんだろうと思われた方も多いはずだ。

本作は帯にも書かれている“連作短編集”と言うよりもむしろ、独立した短編4編と妻が末期ガンになって亡くなる過程を描いた長編がミックスされた超お買い得&オススメ作品である。

たとえば山本周五郎賞を受賞した荻原浩さんの『明日の記憶』を楽しめた方には是非手にとって読み比べて欲しいなと思う。

“平凡”と“普通”という言葉がある。
本作にて出てくる人たちは“普通”の人たちであるが、いわば“平凡”ではない。
というのは、どの編にも不幸な死が直面しているからである。
それでも登場人物たちというか残された人たちは現実を受け止めなければならない。

少し前述したが、前半の4つの短編に出てきた人物たちが後半のいわば本来の連作短編(「その日のまえに」「その日」「その日のあとで」)に脇役として登場する。
不覚にも彼らの突然の登場に涙してしまった。
重松氏にとっては予定調和だったのだろうが、一読者である私はその筆の冴えに度肝を抜かれたことを正直に吐露したい。

重苦しく悲劇的なテーマをいとも簡単にわかりやすく読者に提供してくれる。
家族小説は題材でしかなかった。
崇高な親子愛と夫婦愛、あるいは熱き友情を読者に身につかせる・・・本作は重松ワールドの到達点だと思ったりするのである。



健気に生きるって本当にむずかしい。
本作に登場する人たちはすべて健気に生きている。
大輔・健哉兄弟のみならず、看護師の山本さんに至るまで・・・
他の重松作品でも味わえるのであるが、本作ではより一層、深い悲しみに打ち勝つべく“健気な努力を怠ってない点”が読者の胸を熱くするのである。
たとえば、「ヒア・カムズ・ザ・サン」に登場する高校生のトシが後半母親の病室を毎日訪れるシーン、あるいは石川さんがシュンの為に花火大会を催そうと努力しているシーン。
とっても印象的である。
そしてなによりも凄い点は、主人公(と言っていいだろう)の僕が前述した彼らの行動や生き方を“前向きに生きているものの象徴としてバネとしている”点である。
重松ファンの誰もが胸を打たれることであろう。

もしあなたが余命3か月の宣告を受けたら?
そんな気持ちで本書を手にとって欲しいなと思う。
はたしてあなたは涙せずに読めるだろうか?
少なくとも30才以上の方が読まれたら、少しずつ直面していくであろう未来の“死”を考え、あるいは子供のころの“忘れられない思い出”を懐かしむのもいい。

新たな人生の“教科書”を手に入れた重松ファンの心の中には、作中に出てくる無農薬野菜が毎日届いているのであろう。

亡くなった和美さんが天国で微笑んでる夢を今晩は見そうな気がするのは私だけであろうか・・・
是非、あなたの意見も聞かせて欲しいなと思う。

評価10点 超オススメ作品

2005年58冊目

この作品は私が主催している第4回新刊グランプリ!にエントリーしております。
本作を読まれた方、是非お気軽にご投票いただけたら嬉しく思います。
(投票期間2006年2月28日迄)



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