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『はるがいったら』 飛鳥井千砂 (集英社) - 2006年02月01日(水)


飛鳥井 千砂 / 集英社(2005/12)
Amazonランキング:位
Amazonおすすめ度:


<またまた新しい才能の誕生! これがあるから読書はやめられない>

直木賞の新人版と言っても過言ではないほど近年人気作家を続々と輩出している小説すばる新人賞。
前回の受賞作で直木賞の候補にもあがった『となり町戦争』に引き続き第18回の本作も魅力ある作品が受賞されたのは嬉しい限りである。

幼い頃に両親が離婚したことで、別々に暮らす姉でデパートガールの園と弟で男子高校生の行。
ふたりの熱き姉弟愛(絆)はハルという一緒に住んでいた時期に公園で拾った一匹の犬の介護を通して固く結ばれている。
そのハルはずっと弟が介護していたのであるが、入院を機に姉が預かることとなる。
そのことがハルにとっても転機となるのである・・・

ジャンルとしたら家族小説と恋愛小説と青春小説をたして3で割ったような感じ。
私自身、姉がいるのでこの作品を読みながら少し離れ離れになった姉とのことを思い出した。
結論とすれば誰もが持っている悩みや弱い点を犬であるハルがすべて引き受けてくれているように見受けられた。
あらためて表紙を見るとハルが余計にいとおしく感じられる。

表面上は完璧主義者のように見受けれる姉の園、少し控えめで義兄と距離を置いていた行、日頃読者の周りでよく見受けられる他人にしかわからない自分の欠点を見事に描写している。
とりわけ園の会社内での女性社員間でよくありがちな部分やがリアルに盛り込まれていてなかなか楽しめるのである。
いや単に楽しめるだけじゃない。
多かれ少なかれ、自分(読者自身)がまわりからどう思われているかと言うことをもう一度考え直す機会を与えてくれる作品でもある。

個人的にもっとも印象的というか作者の名演出が突出しているなと感じたシーンはやはり行が入院中の病院で実の母親と現在の母親が会話をするシーンであろう。
人はそれぞれの立場によっていろんな見方・捉え方があるんだなと再認識した。


飛鳥井さんは1979年生まれ。
作者の最も優れているところは登場人物(主役から脇役にいたるまで)それぞれが巧く機能している点。
本作は姉と弟それぞれ交互の視点から語られるのであるが、お互いの愛情が少しづつ読者に伝わってくるところが心憎いのである。
4才違いの姉と弟。
読まれた方の多くが感づかれたと思うのであるが、恋愛に対するそれぞれの突き進み方も対照的である。
決してミステリーじゃないんだけど、いろんな伏線が最後のあたりで終結します。
内容的にもさらりと書いていて結構人の奥底まで描けている部分に感心することしきり。
あとは文章の読みやすさも特筆物である。
読みやすさという点においては新人離れした作家だと断言したいと思う。
もちろん犬好きな方にも是非手に取って欲しい作品であることを付け加えておきたい。

最後に本作を読み終えてとっても贅沢な読書を堪能したつもりである。
ハルは○○に行ってもいつまでも2人の姉弟を見守ってくれていると信じているから。
あなたも本書を手に取り最後に胸がしめつけられ、明日への活力を是非養って欲しいなと切望する。

評価9点 オススメ

この作品は私が主催している第5回新刊グランプリ!にエントリーしております。
本作を読まれた方、是非お気軽にご投票いただけたら嬉しく思います。
(投票期間2006年8月31日迄)



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