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『砂漠』 伊坂幸太郎 (実業之日本社) - 2006年02月05日(日)


伊坂 幸太郎 / 実業之日本社(2005/12/10)
Amazonランキング:位
Amazonおすすめ度:


<“いつまでも素直な気持ちを忘れずに生きようよ!”ということを教えてくれる青春小説の決定版!>
今までの伊坂作品は本作と比べて読者を選ぶ節があったような気がする。
実際、私の周囲の人に貸しても面白かったと素直に喜んでいただける方7割と、少し斜に構えてるいるんじゃない(理屈っぽいという意味合いだと思われます)という意見の方3割ぐらいで、後者の方には残念な気持ちで一杯だったのである。

現在、面白い小説を紹介してくれと言われたら迷わずにこの作品を紹介したいと思っている。
伊坂さんだけじゃなく他の作家のどの作品よりも・・・

なぜなら本作は伊坂さんの鮮やかさが前面に出た非の打ち所のない作品に仕上がっているからだ。
過去のどの作品よりも全体の構成・読後感の暖かさ・テーマの大きさがレベルアップしているように感じられるのである。
伊坂さんって青春小説というイメージと少しかけ離れていたのであるが、まるで水を得た魚のように本作で披露した語り口の滑らかさには驚いた次第である。

この作品の素晴らしさは、“必ず読まれた方がもう一度大学生に戻りたい”と思えることだと思う。
現在進行形で学生生活を送っている方には“一日一日悔いのないよう”に過ごして欲しいという大いなるメッセージ作品だと言えそうだ。
本作の主人公・クールな北村を含めて男女大学生5人衆。
伊坂作品の最大の特徴である個性的キャラクターと軽妙洒脱な会話が読者を酔わせるのである。
より磨きが掛かったと言える本作、理由は明確である。
そう、読まれた誰もが度肝を抜かれた“西嶋”の存在である。
西嶋の登場=伊坂さんの大きな成長のあとが窺えると言えそうだ。
個性的でユニークな西嶋、かつて伊坂作品で彼のようなボケ役でありながら共感出来る人物の存在ってあっただろうか?

読者の方が西嶋に共感→調和できるのである。
過去に『チルドレン』で登場した陣内が最強の人物だったと思っていたが、本作の西嶋のように“生き方に賛同できる”レベルにはいたっていないような気がするのである。

作中で何度か麻雀シーンが登場する。
たとえば麻雀を知らない方が本作を読まれたとしよう。
少しわかりづらい点があるのは間違いのないところであるが、少なくともちょっとでも麻雀を知っていたらもっと楽しめたのにとか、あるいは麻雀を覚えてみようと思われた方が大半であろうと推測できるのである。
いわば読者も本作の麻雀ゲームに参加しているかのような気分になることが出来る。
言い換えればまさしく本に没頭している証拠であると言えよう。

最後に別れの時期がやってくる。
寂しさを感じた。
ああ、青春っていいなあ・・・
ユーモアだけじゃなくほろずっぱさも味わえる。
青春小説とミステリーと人生テーマの融合。
なんと贅沢な作品なんだ、本作は。
単に面白かっただけじゃなく、読んでよかったなと思える作品に邂逅した喜び。
繰り返すが今までの伊坂作品では味わえなかったのも事実である。

登場人物と同じ世代の方が読まれる以上に(『“砂漠”未経験者』)、過去を振り返り懐かしめる方(『“砂漠”経験者』)が読まれた方がより一層楽しめる作品だと言えそうだ。
なぜなら砂漠経験者の方が下記の作中の言葉をより共感できるからだ。
人間にとって最大の贅沢とは、人間関係における贅沢のことである。


私は今、ネット上でこの感想を書いている。
最後の方で伊坂さんに心地よく騙され、心地よく本を閉じれた(笑)
作中で胸をなでおろして喜んだ気持ちはまるで大学生に戻った気分、いや6人目の仲間に入った気分である。

伊坂さんの今までの作品群はどちらかと言えば個性派作家としてのもの。
本作を持って国民的作家への道のりを歩みだしたと断言したいと思う。

これからも小説の魅力を余すところなく伝えて欲しい。
ファンのひとりとしてのの強い希望である。

評価10点 超オススメ作品

この作品は私が主催している第5回新刊グランプリ!にエントリーしております。
本作を読まれた方、是非お気軽にご投票いただけたら嬉しく思います。
(投票期間2006年8月31日迄)




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