『強運の持ち主』 瀬尾まいこ (文藝春秋) - 2006年05月19日(金) <読者の心の扉を開けてくれる1冊> 通彦に初めて会って占ったとき、彼が強運の持ち主であることはすぐにわかった。でも、ここまで見通すことはできなかった。四柱推命でも、姓名判断でも、自分が通彦を好きになることまでは予想できなかった。だけど、一日そばにいただけで、通彦とずっと一緒にいたいと思うようになることが明確にわかった。自分で踏み込まないと根本的なことは何もわからない。確かなことは直接触れないと知れないのだ。 何と13ヶ月ぶりの待ちに待った新刊。 瀬尾さん特有の歯切れのいい文章は健在である。 瀬尾さんお得意の“食べ物効果”も恋人通彦の雑な料理を通して微笑ましく描かれている。 どういう作品か瀬尾さん流に言うと・・・ “ちょっとした気持ちの持ち方次第で明日は開けるのだ。” まず、本作の内容を簡単に説明しますね。 意外と奥が深いので2回読むことをオススメしたい(笑) 主人公はルイーズ吉田(吉田幸子)。 短大を出てOLとなるが上司と折り合いが悪く半年で辞め、「ジュリエ数術研究所」にてアルバイトで占いを始める。 1年ほど前から独立し1人でショッピングセンターの2階の奥で営業中である。 恋人の名は通彦で同棲中。彼は以前に前の恋人に連れられて占いに来たときに強運の持ち主であることを見抜き猛烈にアタックした。 前半の2編「ニベア」「ファミリーセンター」が家族小説的要素が強い。 どちらかと言えば今までの瀬尾さんのお得意の展開パターンである。 少しミステリー的要素も入ってるかな。 後半の2編「おしまいの予言」「強運の持ち主」は恋愛小説的要素が強い。 ユニークキャラで物事の終末が見えるという大学生の武田君が現れてから物語が動くのである。 ルイーズ自身が“おしまい予言”され慌てだす。 占いのように適当にするわけにいかず、通彦に対して急に接し方を変えたりして想いを募らせるシーンは読み応え十分。 少し彼のことを物足りないと思いつつも、もっとも大事な人であるという認識を深めていく女心が可愛い。 全体を通しては主人公のルイーズ吉田の成長小説として捉えることが出来る。 武田君がこの店に来て、一緒に働きだしてさ、なんだか、一人は面倒くさいなって思うようになったんだ 最初はひとりが気楽で始めたのであるが、アシスタントを雇い(武田と竹子)心を打ち解けられるようになる過程が描かれている。 竹子さんの明日を決めるのは、占いでも自分自身でもない。竹子さんの明日は子どもによって、動いていく。私の運勢を動かすのは、今はまだ自分自身だ。だけど、ほんの少し、私のこれからを決めるのに、通彦が入り込んでる。通彦も同じ。私が入り込んでるはずだ。 いろんなエピソードを通して人間的に成長したルイーズ吉田。 彼女の成長がふたりの恋愛の絆を強固にしていることを噛み締めて読んで欲しいなと思う。 絶対的な感動度で言えば過去の『図書館の神様』や『幸福な食卓』の方に軍配を上げたい。 しかしながら読書を終えて前向きになるのは本作がベストだと思っている。 是非、過去の作品と比べて欲しい。 瀬尾さんの全作品6冊を枕元に並べてみた。 “読者が人間としての原点に戻れる作品”の数々。 かつて『タイタニック』を繰り返し観て涙したように、瀬尾さんの作品も何回も何回も繰り返して読んで欲しい。 どれだけ瀬尾作品により勇気づけられたことであろうか。 たとえば、中学生以上のお子さんがいらっしゃる方は親子で楽しんで欲しい。 未婚の方は何回も擦り切れるほど読んで心の糧にして欲しい、そしてお子さんが誕生し成長された時に読ませてあげて欲しい。 少し考察したいのであるが、本作に描かれている4編は別冊文藝春秋の2004年5月号から2005年5月号まで掲載されたもの。 改稿もされず1年経過してから発売されている。 瀬尾さん自身は昨年の春に講師から教師へとステップアップされた。 二足のわらじをはくのは本当にむづかしいかもしれない。 複雑極まりない気持ちであるが、瀬尾さんは教師という職業が作家という職業よりファーストプライオリティーのようだ。 何かに打ち込んでいる人って素晴らしい。 きっと素晴らしい作家である以上に、素晴らしい教師であるんだなと、少し残念な気持ちもあるが瀬尾さんの今後を見守って行きたいなと思う。 評価9点 オススメ この作品は私が主催している第5回新刊グランプリ!にエントリーしております。 本作を読まれた方、是非お気軽にご投票いただけたら嬉しく思います。(投票期間2006年8月31日迄) ...
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