『終末のフール』 伊坂幸太郎 (集英社) - 2006年05月23日(火) <“いさかこうたろう”が奏でるおとなたちのための童話> 本作は今までの伊坂さんの作風を継承しつつも、新しいスタイルというか方向性をも取り入れた新境地開拓の作品と言えそうだ。 簡単に言えば、少しの群像劇と大きな心の葛藤を描いたメッセージ色の強い作品。 同じく死を題材とした作品として『死神の精度』と言う作品があったが、本作の方がずっとメッセージ色が強い。 『死神の精度』では特異な能力を持つ主人公が登場したが、本作においては各編ごとに主人公が移り変わりなおかつごく普通の人間が描かれている。 だから、前者は単なるSFエンターテイメント作品の域を超えず、逆に本作は少なからず身につまされる作品である。 だから『死神の精度』と同系統と思って本作を手に取られた方は驚愕されることとなるはす。 展開のスピード感や会話の軽妙洒脱さに関しては他作より劣るが、読んだ誰もがひとごとではないと感じる筆さばきは見事のひとこと。 8年後に小惑星が落ちてきて地球が滅亡するアナウンスされた2×××年。 それから5年、ようやく大きな暴動も収まりつつある小康状態の仙台市北部の団地が舞台。 伊坂氏は、本当に仙台の街が好きなのであろう。 伊坂氏の強みはたとえば暴動が起きている最中のパニック小説も書けるであろうし、本作のように小休止状態で少し考える余地が出てきた人間を描くことも可能。 過去の伊坂作品と比べると、作品の醸し出すテイストはどんよりと重い。 絶望的な状況のもとで葛藤する登場人物たち。 どの短編も1編1編読ませてくれる。 すなわちどの主人公にも感情移入できるのである。 とりわけ印象的だったのは「太陽のシール」と「鋼鉄のウール」。 前者は世界があと3年で終わろうとしている矢先に、今まで不妊で悩んでいた夫婦に生命が宿る。 生まれてきても3年しか生きられない子どもを産んで幸せなものかどうかと悩む夫婦の葛藤ももちろん素晴らしいんだけど、高校時代の友人・土屋の話にはホロッとさせられます。 後者はキックボクシングの武田幸三選手をモデルとした話なんだけど、苗場の生き方がとっても魅力的なんだ。 あと3年で世界の終わりを告げられても動じることなく、いつものようにボクシングのトレーニングに明け暮れる毎日。 苗場の次の言葉が伊坂氏の本作のメッセージを代弁している。 『明日死ぬとしたら、生き方が変わるんですか?』『あなたの今の生き方は、どれくらい生きるつもりの生き方なんですか?』『できることをやるしかないですから』 もちろん連作短編集として、いや、長編小説としても上手く話が収束する。 あたりまえのことであるが、私たちの住む世の中は平和である。 ちいさな悩みなんかにとらわれずに、一生懸命生きて欲しいという作者の強い訴えを感じずにはいられない。 最近の伊坂作品は読者に呼びかけしているような気がする。 若干の作風の変化を感じずにいられない。 もちろん『陽気なギャングの日常と襲撃』のような例外もあるが。 ただ、本作を読み終えて『陽気な�◆戮里茲Δ粉袷瓦縫┘鵐拭璽謄ぅ瓮鵐蛤酩覆睇�要なような気がした。 伊坂氏の呼びかけに呼応するために、私たちは童心へと帰らなければならない。 童心に帰って読めば読むほど、明日からの生活の大きな糧をより多く得ることとなるはずである。 青春を熱く描いた『砂漠』、人生の意義を巧みに描いた本作『終末のフール』で伊坂氏のひとつの到達点を目の当たりにした。 読者は人生の意義をもういちど考え直すことを余儀なくさせられる。 どちらかと言えば本作の方がインパクトが弱いのであるが、『砂漠』と両方読むことによって伊坂流の生き方が伝授されそうな気がする。 単なるエンターテイメント小説の旗手から後世に名を残す作家へと、今まさにホップの段階が終わりステップ→ジャンプの段階に突入したと考えてよさそうだ。 これからも読者いや国民の心に根ざす作品を上梓し続けて欲しいなと思う。 伊坂氏なら使命をまっとうできるはずだ。 なぜなら『できることをやるしかないですから』・・・ そういう言葉がきっと返ってくるはずだ。 私は、作中のキックボクサーのモデルは伊坂さんじゃないかなと思っている読者も多いのであろうと確信している。 評価9点 オススメ この作品は私が主催している第5回新刊グランプリ!にエントリーしております。 本作を読まれた方、是非お気軽にご投票いただけたら嬉しく思います。(投票期間2006年8月31日迄) ...
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