『流れ星が消えないうちに』 橋本紡 (新潮社) - 2006年05月30日(火) <前向きに生きることの尊さを実感出来る作品> 最愛の恋人を失うのは、とても辛いことだった。この一年半、わたしはただ呼吸をしていただけで、ちゃんとは生きていなかった。たぶん、一度、わたしの心は壊れてしまったのだと思う。 近年ライトノベル界から一般小説に進出した作家が目立っている。 乙一さんを筆頭に桜庭一樹さんや米澤穂信さん、それに有川浩さん。 本作の橋本さんもライトノベルのジャンルで大活躍する作家らしい。 ほとんどライトノベルと縁がない私とすれば、一般小説に殴り込みをかけてきた本作でやっと作者と接点を持ったのであるが、さすが大手の新潮社が白羽の矢を立てたことはあるなと思ったのが正直な気持ちだ。 ストーリー的にはありふれている部分もあり、ほぼ予定調和的に終わると言ってよさそうだ。 ただ、この作家のただものでない点は敢えて主人公を2人にして交互の視点で描いているところであろう。 これは男女問わずに受け入れられる要素が高いと感じた。 深い感動はないのであるが、爽やかな登場人物のキャラと読後感に心を癒されるのだ。 ひとりは奈緒子。 1年半前に恋人であった加地を亡くしその後、加地の友人である巧と交際を続けている。 わけあって両親と妹が九州で暮らしており一人暮らし。 加地が亡くなってから想い出の残る自室では眠れなくなり、玄関に布団を敷きっぱなしにしてそこで眠る習慣となっている。 物語は九州から突然父親が「家出してきた」と戻ってくるところから始まる。 もうひとりは寛大な心の持ち主で菜穂子の現在の恋人である巧。 どうしても男性読者は巧と加地との熱き友情小説として読んでしまうことを許されたい。 巧みの中に加地や菜穂子の心の苦しみ・悲しみをすべて背負って生きている部分を見出せた。 これは男として素晴らしいの一語に尽きる。 さすがに加地との想い出のシーンに感傷にひたる菜穂子の気持ちは辛いものがあるものの、やはり菜穂子と同様、巧にとっても加地が大切な存在であったということが読者に伝わることがキーポイントだと思われる。 印象的なのは巧と菜穂子の父親との会話の部分。 お互いに酒を飲みながら好きな野球やサッカーの話題で盛り上がる。 個人的には父親の行動や菜穂子の妹の行動には、橋本さんも欲張りすぎたいうか焦点がぼやけた気もするのであるが・・・ 少なくとも父親が巧の好感度アップの為に果たした役割は大きかったと思うのである。 菜穂子はしあわせものである。 そう思って貰えたら橋本さんの想いが読者に通じたと言って良さそうであろう。 本作には大道具と小道具が効果的に使われている。 大道具はタイトルともなっている流れ星、これは読んでのお楽しみと言うことで・・・ 小道具は見知らぬ女性と一緒に亡くなった加地の真相を、巧が手紙を通してわかっていて菜穂子に黙っている点。 この設定は物語全体をかなり支配し、読者を引き付けながら読ませる要因ともなっている。 過去に縛られつつも前向きに生きようとする2人。 この作品を読んで誰しも感じることは、天国の加地が2人の幸せを1番願っていると言うこと。 少なくとも2番目の応援者となってナイスガイ巧と菜穂子の幸せを願いたい。 加地と出会った以上に巧と出会ったことが菜穂子にとって一期一会であったはずである。 評価8点 この作品は私が主催している第5回新刊グランプリ!にエントリーしております。 本作を読まれた方、是非お気軽にご投票いただけたら嬉しく思います。(投票期間2006年8月31日迄) ...
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