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『チョコレートコスモス』 恩田陸 (毎日新聞社) - 2006年06月01日(木)


恩田 陸 / 毎日新聞社(2006/03/15)
Amazonランキング:位
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<文章で臨場感を表現できる限界に挑戦した作品。まさに恩田陸の独壇場。>

ディープな恩田ファンにとっては物議を醸し出すかもしれない発言であることを承知で言わせていただければ、本作は『夜のピクニック』を凌ぐ恩田陸さんの新たな代表作と呼べるかもしれない。

たとえば、読書に面白さや楽しさを求める方(いわばエンターテイメント性ですね)のニーズには100%応えれる演劇を舞台とした傑作作品と言えそうだ。
緊迫感のある文章で、読者が本を開いてから閉じるまで、終始緊張感を持続できる作品に仕上がっている。
本作を手にする誰もが、登場人物の情熱に圧倒されることを覚悟しなければならないであろう。

前置きはともかく、本作はどうやら『ガラスの仮面』のオマージュ的な存在として書かれた作品らしい。
私のようにまったく『ガラスの仮面』に対して知識のない(名前程度は知ってますが)人間が読んでも、楽しめるいや読書を堪能できる1冊である。

物語を進行させてくれるのはまず、中堅脚本家の神谷。彼が事務所から飛鳥の優れた能力を見かけるところから物語が始まる。
彼の優れた演劇に対する観察眼が物語を巧みにコントロールしている。
いわば読者に対してナビゲーター的存在と言って良いのであろう。
そして主人公とも言える2人を忘れてはならない。
ひとりは幼いころから敷かれたレールの上を走るように演劇を始めて、若いながらもすでにその演技力には定評のある東響子
もうひとりは、響子とは対照的に大学に入って芝居を始めたばかりなのに、ズバ抜けた身体能力と天才的なひらめきを見せる佐々木飛鳥
この2人はライバルというかお互いを認め合って切磋琢磨している部分が目立つような気がする。
たとえば相手の失敗を喜んだりとかそう言ったレベルの低いところはほとんどない。
あと飛鳥が属する大学の劇団員で脚本家志望の梶山巽
大体、この4人の視点で語られるといって良さそうだ。

伝説のプロデューサー芹澤泰次郎が新国際劇場の杮落としで上演されるという話題作品のオーディションをめぐって繰り広げられる情熱の舞台。
オーディションに臨むのは大御所の女優、売り出し中のアイドルあおい、キャリアを積んできつつある若い女優葉月、あと前述した演技を始めて半年という大学1年生飛鳥。

オーディションも段階があってとりわけ最終オーディションの描き方は秀逸。
響子は最初のオーディションでは見学、最終では相手役で登場、オーディション結果は読んでのお楽しみで・・・

思ったよりドロドロした部分たとえば女優同士の確執・・・火花を散らすシーンが少なくって読みやすかった。
主観が限定されているのが読者にとって頗る優しくかつ親切だと思う。
恩田さんがテクニック的に凄いのは第1オーディションにて無理難題を突きつけられた個々の女優たちが、それぞれ自分のイメージにぴったりあった即興の演劇をするところ。
それでもって、最後に飛鳥が登場して先に演じた女優以上の演技をいとも簡単に行う。
このあたりの盛り上げ方は素晴らしく、読者も思わずあちら側に行ってしまうのである(笑)
恩田ワールドに入り込み、読書に没頭している自分がまるで客席の舞台に神谷や巽のように感じられる。

オーディション後の流れも恩田作品にてよく指摘される中途半端な終わり方ではなく、スッキリとしたエンディングで終わらせてくれるので高揚した気分で本を閉じることが出来た。
もちろん、続編があれば是非読んでみたい。
とりわけ、飛鳥に対してはまだ未知な部分が多いので(過去に空手をやってたぐらいかな)、もっと話を膨らませて楽しませて欲しいなと思う。

もちろん、演劇に携わる人々・・・女優だけでなく脚本家・演出家・プロデューサーの大変さも垣間見ることが出来る。
恩田さんもかなり演劇がお好きなんでしょうね。
特に、芹澤のキャラが当初イメージしていたものと違って、微笑ましく書かれている点が物語全体を和ませてくれる。


作品全体として、少し秘密めいた飛鳥と現状に決して満足しない響子の人間性のコントラストが見事。
その他の登場人物の息づかいも読者にひしひしと伝わってくる。

恩田さんはこの作品で読者とまさに一体となることに成功している。
終始一貫して“物語が情熱的かつ前向きなので、読者も入り込みやすい”のである。
恩田陸って“文壇の佐々木飛鳥のような存在である”ことを認めたいと思うのである。
もちろん天才肌という意味合いにおいてである。
みなさんも是非“あちら側に一緒に行きましょう”。

恩田版『ガラスの仮面』と言う点だけを斟酌出来れば、ほとんど欠点のない完璧に近い作品だと言えそうである。
少なくとも同じジャンルでこれ以上の作品を書ける作家は存在しないであろう。

細かく語りだせばオーディションより長くなりそうなんで(笑)、とりあえず未読の方は読んでくださいということを強調してペンを置くこととしたい。

評価9点 オススメ

この作品は私が主催している第5回新刊グランプリ!にエントリーしております。
本作を読まれた方、是非お気軽にご投票いただけたら嬉しく思います。
(投票期間2006年8月31日迄)




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