みちる草紙

2001年10月25日(木) 黄昏

サンフランシスコからの客人を出迎えるため、上司に同行し成田空港へ。

ラッシュアワーだったせいか、事前に知らされた便は到着している筈なのに
待ち人はなかなか姿を見せず、プラカードを掲げ立ちつくすこと1時間半。
カートを押しながらぞろぞろ進む大勢の乗客に紛れ、やっと現れたのは
柔和な笑顔を寸時も絶やさぬ、たいそう品の良い老夫婦だった。

Tホテル行きのリムジンを待つ間、上司はご主人と何を話しているのか
妙にウケまくっており、アタシは令夫人と女同士ソファに腰掛け
話題と笑みを無理にも途切らさぬようにと骨折っていた。
夫人は日本語が全く話せないのだが、今回の主要な来日目的は
彼女の水彩画の展覧会であるから、絵画ネタで辛くも間を繋ぐことは出来た。
それにしても、自分に向けられた相手の目から、片時も視線を逸らさず
話を続けるというのは、照れ屋さんのアタシには実に難しい技である(ー_ー*)

徐々に暮れなずんで行く空の色や、眼下を走行する大小の車の群れや
既にびっしり夥しく灯った都会のあかり、それらをぼんやり見つめながら
すり寄せてくる上司の膝を避けるため、無意識のうちに身体を強張らせる。
ふと通路向こうの座席を見やると、件のアメリカ人夫婦は、互いの肩と頭に
顔をもたせかけ合い、ブランケットにくるまって仲良く居眠りをしていた。

この安らかに老いたかに見える夫婦にも、乗り越えてきた困苦はあるだろう。
男と女が添い遂げるとは、惰性で一緒に年を重ねるということではないのだ。

そんな当たり前のことを考えていると、バスに酔った上司がアタシの肩に
もたれかかり、のべつ生あくびをしては強烈な口臭を浴びせかけるので
束の間の感慨は、あえなく意識の彼方に消しとばされたのでありました(-_-;)


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