サンフランシスコからの客人を出迎えるため、上司に同行し成田空港へ。
ラッシュアワーだったせいか、事前に知らされた便は到着している筈なのに 待ち人はなかなか姿を見せず、プラカードを掲げ立ちつくすこと1時間半。 カートを押しながらぞろぞろ進む大勢の乗客に紛れ、やっと現れたのは 柔和な笑顔を寸時も絶やさぬ、たいそう品の良い老夫婦だった。
Tホテル行きのリムジンを待つ間、上司はご主人と何を話しているのか 妙にウケまくっており、アタシは令夫人と女同士ソファに腰掛け 話題と笑みを無理にも途切らさぬようにと骨折っていた。 夫人は日本語が全く話せないのだが、今回の主要な来日目的は 彼女の水彩画の展覧会であるから、絵画ネタで辛くも間を繋ぐことは出来た。 それにしても、自分に向けられた相手の目から、片時も視線を逸らさず 話を続けるというのは、照れ屋さんのアタシには実に難しい技である(ー_ー*)
徐々に暮れなずんで行く空の色や、眼下を走行する大小の車の群れや 既にびっしり夥しく灯った都会のあかり、それらをぼんやり見つめながら すり寄せてくる上司の膝を避けるため、無意識のうちに身体を強張らせる。 ふと通路向こうの座席を見やると、件のアメリカ人夫婦は、互いの肩と頭に 顔をもたせかけ合い、ブランケットにくるまって仲良く居眠りをしていた。
この安らかに老いたかに見える夫婦にも、乗り越えてきた困苦はあるだろう。 男と女が添い遂げるとは、惰性で一緒に年を重ねるということではないのだ。
そんな当たり前のことを考えていると、バスに酔った上司がアタシの肩に もたれかかり、のべつ生あくびをしては強烈な口臭を浴びせかけるので 束の間の感慨は、あえなく意識の彼方に消しとばされたのでありました(-_-;)
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