今日は1つ年上の従姉、C幸の誕生日である。しかし、彼女の消息は知れない。
幼い頃はこの従姉が苦手だった。甘やかされた一人娘だけに、非常にワガママ。 親の仕事の都合でC幸の家に預けられる時など、いつも心底うんざりしたものである。 1年生のC幸は、幼稚園児のアタシをつかまえ、すぐ得意げに教科書を引っ張り出す。 そして先生気どりで、習いたての漢字の書き取りや加減計算を勿体ぶって出題しては 「こんなのも分かんないの?」(知るかそんなの)と侮蔑の笑みで不当な優越感を示し 時には体罰(げんこ)まで加えくさる。ガキながら、その暴君ぶりが堂に入っており チビのアタシはどんなに悔しくとも、抵抗する術なくじっと耐え忍ぶだけ…(TへT) 幼な心にそれが癪でたまらず、従姉の遊び相手役は拷問にも等しい苦痛であった。
アタシが中学生の時、C幸の両親は離婚した。母親が駈落ちして家を出たのである。 学年が上がるにつれ行き来はなくなっていたが、C幸が嫌いだったアタシは、まるで 赤の他人ごとのようにその事件を聞き、憎たらしい従姉には良い薬だとさえ思った。 けれど、性格はともかく従姉は学業優秀であった。高校では理系選抜クラスに在籍し 特に数学は学年上位。母はいつも小言ついでに「C幸は家事一切をこなしながら あんなに成績が良いのに、引きかえアンタは!」と八つ当たりしてきたものだ…(-_-;)
ところが従姉は大学進学を断念し看護婦になった。そして奇妙なことに、今現在 彼女の住所も勤務先も、結婚したかどうかさえ、親族の誰一人として知る者はない。 出奔していた叔母が男と別れて市内に舞い戻り、娘の消息を訊ねてまわったのだが 今更ふしだらな母親に関わってはと、C幸の身辺を案じた親戚は皆口を閉ざした。 また彼女の父親筋も、母方の親族との一切の交流をプッツリ絶ってしまったため いつしか父娘の行方は、杳として知れなくなったとのことである。
最後に会ったのは卒業式の日だった。ちらと顔は合わせたが、言葉も交わさぬまま 遂にそれっきりとなった。在りし日のワガママ娘が、今や近寄り難いもの静かさで 落ち着き払い、冷然と大人びていたあの顔を、時折り思い出す。 キャリア十数年を経たベテラン看護婦の従姉は、どこかの病院で今日も 働いていることだろう。血縁の、しかしもはや見知らぬ他人として。
春は、恐らく二度と会うことのないであろう友を回想する季節でもある。
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