みちる草紙

2004年11月14日(日) 地獄変

ベッドで芥川龍之介の『地獄変』を読みながら、ページを開いたまま眠り込む。
そして、絵師良秀の描く地獄さながらの、恐ろしい夢を見てしまった。とんだ午睡だ。

窓から外を見ると、すぐ眼下にターバンを巻いた賊が、通行人の髪の毛を鷲掴みに
頭に銃口をあて、次々にぶっ放している。脳漿がとび散り、辺りは一面血の海である。
ここは中東なのか?それとも血の粛清が、遂に平和な日本にも及んだのか!
仰天し、恐怖のあまり全身が震え、心臓は早鐘のようにガンガンと鳴り出す。
隠れ場所を探すと、アタシの部屋の筈なのに、そこは見慣れぬ倉庫のような造りになっており
業務用冷蔵庫みたいな巨大なロッカーや物入れが、視界を占領して一杯に並んでいる。
そのうちの一つの扉を開け、中に潜り込むが、すぐに見つかりそうな気がして再び這い出す。
こうしている間にも、見つかって引きずり出され、殺されるかも知れない。
恐怖はひととおりでなく、夢の中でさえ、激しく打つ心臓が焼け石を抱いたように胸元で
熱く燃えさかるのが分かった。途轍もなく怖い。でも、こんなところで死んでたまるか。
外に出れば狙撃される恐れがあるが、建物の中にいては爆弾をしかけられたら一巻の終り。
一か八かの脱出を図って、無謀にも車に乗り込み、エンジンをかける…。

隣人のバイクの空ぶかし音で、はっと目が覚めた。
歯を食いしばり、全身がこわ張り、じっとりと汗ばんでいる。
もしかしたら、また舌が咽頭に落ち込み息苦しかったせいで、あんな夢を見たのかも。
ああ恐ろしや。醒めてみれば支離滅裂だが、とにかく良かった、夢で…。
起き上がっても暫くは、強烈な夢見のショックで、続きを見ているように呆然としていた。

何の因果か、こういう暗示的な悪夢を見るのは、初めてではないのである。
これが夢でなく、実際に常に死と隣り合わせの日常であったなら、アタシなど
例え銃弾を免れても、重度のストレスで長生きしそうにないと思うのだが…。

『地獄変』は高校生の頃から、何度となく読み返した有名な短編であるが
これが今回に限って、殊更生々しく情景が脳裏に映じたものなのだろうか。分からない。


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